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与那国島に到着した丸木舟(9日午前、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」提供)

 最初の日本列島人はどうやって黒潮が流れる海を渡ったのか。謎の解明を目指し、台湾を出発した丸木舟が9日昼前、目的地の沖縄県・与那国島に到着した。約225キロを約45時間かけて漕(こ)ぎ続けた。国立科学博物館による「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の責任者や漕ぎ手たちは、意義や苦労を語った。

 実験航海は旧石器時代である3万年前にあったとされる技術で、黒潮の強い流れを横断し、台湾から渡航できるのかを検証するのが目的。丸木舟は縄文時代以降の出土例しかないが、石おのなど3万年前の道具を使ってスギをくりぬいて舟を作った。プロジェクトの海部陽介代表(同館人類史研究グループ長)は「こういう舟だったら黒潮を越えて、海を渡れるとわかった。一方で運も味方した。後半、与那国に向かう潮の流れを利用できた。漕ぎ手の直感がうまく働いた。どうやって昔の人が渡ってきたのか解けていない部分もある」と話した。

 5人の漕ぎ手が乗った丸木舟(長さ約7・5メートル)は、7日午後2時38分(日本時間)に台湾東海岸の烏石鼻(ウーシービー)を出発。時計やコンパスなどは持たず、太陽、星などの位置を頼りに、交代しながら漕ぎ続けた。食料はおにぎり、そして1人計4リットルの水分をペットボトルで持参した。安全のため、丸木舟の航行に影響を与えない形で別の船が伴走した。

 雲で星が見えなかったり、太陽が真上だったりして、方向を見定めることが難しい時間帯もあった。「雲の切れ間から見えた星の明るさが一番の思い出」と漕ぎ手の鈴木克章さん(40)。潮流が逆向きだと漕いでも進まなかった。舟に入った海水は協力してくみ出した。田中道子さん(46)は「みんなで一心に漕いだ」。いかに島を見つけるかが一番の課題だったというキャプテンの原康司さん(47)は、「今回は出来すぎ。この辺と思う所から島が見えてきて正直びっくりした」と振り返った。

 プロジェクトは出発地で調達できる材料を使い、2016年は草で、17、18年は竹で作った舟を使い実験を試みたが、いずれもうまくいかなかった。(米山正寛)