【モスクワ時事】ロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約に違反していると主張する米国の非難をロシアは退けてきた。条約失効を受け、今後も一方的行動を取る米国に対抗し、欧州を射程に収めるミサイルの配備をちらつかせながら、米欧間の亀裂が深まる北大西洋条約機構(NATO)の一層の分断を狙う構えだ。

 プーチン大統領は、米国がINF条約破棄の方針を示して以降、米国が欧州にミサイルを配備するなら「同様の対応を取る」と繰り返し警告。米国のミサイル配備に同意した欧州の国は、ロシアの「報復攻撃」の対象になるとも述べている。NATOを安全保障上の最大の脅威と捉えるロシアは、今後こうした揺さぶりを強めそうだ。

 ロシアは、米本土により近い地域に、米国を標的とする中距離ミサイルを配備する可能性もあるとけん制する。インタファクス通信によると、リャプコフ外務次官は7月31日、米国が欧州にミサイルを配備した場合、米本土近くへの配備を含めて「すべての選択肢が検討される」と語った。専門家は対ロ関係が良好なキューバやベネズエラに配備されるシナリオを指摘する。

 INF条約は射程500~5500キロの地上発射型ミサイルの製造や実験などを禁止している。しかし、ロシアは既に空中発射型と海中・海上発射型でこうした射程のミサイルを保有している。

 プーチン氏は2月、米国がINF条約破棄を表明したことを受け、海中・海上発射型の長距離巡航ミサイル「カリブル」の地上発射型や、地上発射型の極超音速中距離ミサイルの開発着手を承認した。ただ、これまで米国が条約違反と批判してきた巡航ミサイル「ノバトール9M729」は、そもそもカリブルの地上発射型だったとされ、ロシアの説明には矛盾もある。