日本メディア向けに記者会見する韓国与党「共に民主党」の「日本経済侵略対策特別委員会」の崔宰誠委員長(中央)ら=8月12日、ソウル(桜井紀雄撮影)
日本メディア向けに記者会見する韓国与党「共に民主党」の「日本経済侵略対策特別委員会」の崔宰誠委員長(中央)ら=8月12日、ソウル(桜井紀雄撮影)

 日本の輸出管理厳格化に対応するとして韓国与党「共に民主党」議員らが立ち上げた「日本経済侵略特別委員会」が8月に日本メディア向けに記者会見を開いた。福島原発問題を挙げて「日本は五輪を開く資格があるのか」と批判しており、会見でも安倍晋三政権に日韓関係悪化の全責任があるとする一方的な主張をまくし立てた。「日本メディアがわれわれの主張をありのまま伝えれば、韓日関係正常化の助けになる」とも強調。彼らの言い分は関係改善にプラスとなるのか、障害となるのか、主な会見のやり取りを再現してみた。(ソウル 桜井紀雄)

「日韓代理戦」

 「質問と答弁がまるで攻撃と防御のように進行し、きょうの記者会見は、韓国対日本の代理戦のように終始一貫張り詰めた雰囲気でした」

 韓国のSBSテレビは8月12日の夜のニュース番組で、ソウルの国会議員会館で同日行われた特別委の会見のもようをこうリポートした。会見は日本メディア向けで、質疑は日本記者に限定されたが、韓国メディアのカメラも会場に多数並んだ。

 日本政府が輸出管理の優遇対象である「ホワイト国」から韓国を除外することを決めた後で、日本統治からの解放を記念した15日の光復節を目前に控え、韓国社会の反日感情が高潮。韓国メディアは、委員らが何を話すかよりも日本の記者らが何を質問するかに注目していた。

 最初に口火を切ったのは通信社記者で、日本メディア対象にわざわざ会見を開いた「意図」について質問した。崔宰誠(チェ・ジェソン)委員長は、日本政府も韓国特派員を対象に説明会を開いており、「当然なことだ」と応じた。

 ただ、政府が説明するのと、与党の一委員会が説明するのは意味が違う。「韓国政府も同じように考えているとみていいのか」との問いには、明確な回答はなかった。

 崔氏は7月に外国メディアとの会見で、日本が東京五輪の選手村に福島産の食材を提供するとしたことを「自国民も冷遇する食品を全世界の参加選手らの食卓に上げるという。五輪選手らを人質に取るものだ」と述べ、五輪開催国としての日本の資格を問題視していた。

 この日の会見でも「五輪選手団の食卓に福島の農産物を上げるといい、不安を引き起こしたのは安倍首相だ。福島原発近くで競技を行うとしたのも安倍政権だ。憂慮を表明するほかない」との批判を繰り返した。

日本人記者狙い

 崔氏は、放射能汚染を理由に日本への旅行禁止という極論まで口にしてきた。

 通信社記者が「(韓国の)市民は思ったより冷静に行動している。政府が反日感情をあおることに批判もあるが」と指摘すると、「外交的問題について経済報復として経済侵略を引き込んだ安倍政権の措置のせいで引き起こされたことではないのか」と反論した。

 全国紙の男性記者がゆったりした韓国語で、韓国の自治体が日本製品の不買運動を主導することに関して質問する。韓国のカメラマンが日本人記者に向けて一斉にシャッターを切った。韓国メディアの目的が何かを端的に示した。

 崔氏は「自治体が日本製品を買うなと言ったことはない」と反駁(はんばく)した。だが、実際には150余りの自治体が日本の措置に対抗する連合体に参加し、日本製品の購入全面中止などの目標を掲げており、彼らの認識は現実を反映していない。

 韓国が「戦犯企業」と名指しした日本企業と政府機関との随意契約を禁じる法改正案を与党議員が国会に提出したことについて、筆者(桜井)も、特定国の企業との取引を制限することは、世界貿易機関(WTO)の規定に抵触する恐れがあるとの指摘が過去にも韓国で上がっていたと疑問を呈した。

金民錫(キム・ミンソク)副委員長は「誰も不買運動を扇動したことはない」と強調。日本が「自由貿易の原則を壊して不当な報復を始めたところで、WTO規定に反して不買運動をあおっているのではないかと問題提起するのは、本当に笑止千万だ」と鼻で笑うように言い放った。

 金氏は「安倍首相は、日本が唯一の(原爆)被爆国だと言った。罪なき犠牲者のように表現した報道を見たが、日本は被爆国以前に戦犯国家」だと、激高しながら質問とは関係なく、日本国民の感情を逆なでするような主張も展開した。

日本を4歳児扱い

 全国紙の女性記者は、問題の核心であるいわゆる徴用工判決をめぐって、韓国政府が日本政府に、日韓企業が資金を拠出して原告側に慰謝料を払う案を提示していることについて質問した。

 金氏は「判決の基本精神は韓国政府、憲法に盛り込まれた精神を反映したものだ。われわれが別途、言うべき話はない。安倍が答えを持ってくるべきだ」と、答えにもならない認識を示した。

 今回の記者会見を詳報した韓国メディアも「とっぴな答弁をした」と記すなど、自国の与党議員の態度を批判的に報じる記事も少なくなかった。

 全国紙の男性記者が、日本政府が輸出管理を厳格化した半導体材料の一つに韓国向けの輸出許可が出たことに言及すると、金氏は「1000人が通る道をふさいでおいて1人が通れるようにし、『僕、よくやったでしょ』というのは4歳児がだだをこねるのを見るようだ」と、見下したかのような口調で言い返した。

 大手韓国紙の中央日報は社説で、特別委の会見について「日本の記者を呼び集め、『4歳児みたいな行動』『笑止千万』などという表現を使って腹いせの神経戦をした」としてこう痛烈に批判した。

 「われわれの立場を日本国民に効果的に伝える日本メディアを相手に戦って何をどうしようということなのか」

 韓国与党議員らがこうした独善的な主張にしがみつく限り、日韓関係改善はほど遠そうだ。