西村康稔経済再生相との会談後、記者団の取材に答える小池百合子都知事=2020年4月9日午後9時15分、東京都千代田区の中央合同庁舎8号館、野平悠一撮影

 新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言を受けた休業要請で、東京都と国が大筋で合意する見込みになった。だが、こうした流れに至るまでには、「命ファースト」を全面的に押し出して範囲を広げようとした都と、「社会的混乱を避けたい」として対象を絞るよう迫ってきた国との間で、ギリギリの攻防があった。

 「うちの店は開けて良いのかダメなのか。明確にお示ししないと店の方も困るので、スピード感重視でいきたい」。9日朝。小池百合子知事は報道陣に対し、そう危機感を示した。

 都の関係者によると、国側はこの日、休業要請の対象に関する新たな都の案に対し、いくつかの施設を除外するよう求めてきた。

 都が最初に対象施設の案をまとめた6日以降、一部の都関係者は国に対するいらだちを隠さなかった。

 「目的が何かが最大のポイント。命を守ることである」。小池知事は7日夜の記者会見でそう語っていた。都はこの日に休業要請の対象施設を公表する意向だったが、経済への打撃を気にかける国との調整がつかなかった。会見で「命ファースト」を強調した知事の姿勢を、都関係者は「経済への影響を優先しているようにしか思えない国への当てつけだった」とみる。

小池百合子都知事との会談後、報道陣の取材に答える西村康稔経済再生相=2020年4月9日午後9時55分ごろ、東京都千代田区、山本知弘撮影

 8日に発覚した都内の感染者は最多となる181人。累計では1500人を超えた。ある都幹部は「このまま感染者が右肩上がりを続ければ、東京の医療体制が崩壊してしまう。何としてでも、週末から休業要請は果たさなければならない」と強調した。

 幅広い業種に営業自粛などの制限を求めようと動く都に対し、国側は社会的な混乱を懸念した。

 国は当初から、「安定的な生活の確保に欠かせない施設まで対象で、感染拡大防止に役立つとは思えないものがある」として、都に対象施設の見直しを要求。西村康稔経済再生相は、8日夜の民放番組で「知事がやり過ぎたり、緩すぎたり」した場合を念頭に、政府対策本部長の首相に「(知事に助言などを行える)総合調整の権限が想定されている」と述べ、都を牽制(けんせい)した。

居酒屋」案に注文

 焦点となった「居酒屋」にも注文をつけた。都は当初、対象施設に居酒屋を明記。ただ国は、居酒屋に明確な定義がないことを理由に、「都の提案では、ラーメン屋でビールを飲むことまでダメになってしまう」と主張。政府関係者は「線引きをもっとはっきりと示してもらわないといけない」と語る。

 両者の対立に対し、佐々木信夫・中央大学名誉教授(地方自治論)は「都も国も行き当たりばったりの政治ショーをやっている印象だ。都は五輪・パラリンピックが延期になった上、感染者数が急増する中、都民にどう対応策をわかりやすく伝えようか焦ったのではないか」と語る。「休業要請に向けた混乱が続けば、困るのは一般の人だ」(長野佑介、中田絢子、関口佳代子)