バイデン米政権が日本との関係強化や中国への対抗を狙い尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関する発言を繰り返している。米国は尖閣が日本の施政下にあるとして防衛する意思を表明する一方で、中国が主張する尖閣の領有権については「特定の立場を取らない」と配慮する。だが、横暴な海洋進出を続ける中国への不信は強まっており、思わず本音も漏れだした。

 「尖閣の主権に関する日本の立場を支持する」

 米国防総省のカービー報道官は2月23日の記者会見で、中国海警局の船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返していることを批判し、こう述べた。米政府がこれまで踏み込まなかった領有権の判断を示したことで、多くの日本メディアが取り上げた。

 これに対し、中国政府は強く反発。カービー氏は同26日の記者会見で、自身の発言について「尖閣の主権をめぐる米政府の方針に変わりはない」と発言を訂正した。ただ、元米政府高官は尖閣の領有権について「日本の領土だと多くの人が思う」と指摘しつつ、「領土の議論となれば、第三国の米国が立場を示すのは難しい」と話す。

 シュライバー元国防次官補は、日本国際問題研究所(東京都)が主催した同26日の国際会議で、尖閣をめぐる争いに関する質問が出ると、「政府の人間はこういった質問に答えるなといわれている」と指摘。米政府で尖閣をめぐる発言を慎重に行うよう徹底されていることを明らかにした。

 だが、カービー氏はオバマ政権で国務省の報道官も務め、記者会見のプロともいえる。尖閣に関して慎重な発言が求められることを知らないはずがない。カービー氏の発言について、日本政府高官は「中国の軍事覇権に対する警戒感や不信の表れで、本音が出たのだろう」と分析する。

 米国で高まる中国への警戒感や不信の背景には、2015年9月の米中首脳会談後の共同記者会見で、習近平国家主席がした“約束”がある。習氏は中国が南シナ海で進めていた人工島建設に関して「軍事化の意図はない」と発言した。しかし中国はその後、人工島を軍事拠点化し、当時のオバマ大統領との「約束を破った」との声が米政府内で高まった。中国に対する信用度は大きく損なわれ、オバマ政権で副大統領を務めた現大統領のバイデン氏の対中政策にも影響を及ぼしている。

 もともと米国には、尖閣で日中の軍事衝突が起きた場合、「岩(尖閣)を守るために米国が血を流す必要があるのか」という声もあった。そうした中でバイデン氏は今年1月の政権発足直後の日米首脳電話会談で、日本防衛の義務を定めた日米安全保障条約第5条の尖閣への適用を表明。オースティン国防長官も5条適用を明言するなど、日米同盟の強固さを示して中国を牽制(けんせい)している。中国は2月に海警局の武器使用権限を明確化する海警法を施行して東・南シナ海での軍事的な圧力を強化しており、米国の対中不信が改善する気配はない。(坂本一之)