中国の電力危機は工場の現場や住宅のみならず、一部の地域では道路の信号機にも影響が広がっており、中国経済の成長率見通しを下方修正するエコノミストが相次いでいる。

  商品市況を揺るがしている欧州などのエネルギー供給問題とも似通っている。新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)後の経済回復で需要が押し上げられる一方、鉱山や採掘業者による投資縮小で生産が抑制されていることが一因だ。

  だが、習近平国家主席が掲げた脱炭素化のビジョンを受けて、数十年にわたり中国の経済成長を支えてきた安価なエネルギー源である石炭火力も抑えられており、自国の環境政策が電力危機を招いている側面もある。

1.中国はなぜ電力需要を満たすことができないのか

  石炭不足が主因だ。石炭をベースにした電力生産者は国内発電の70%超を占めているが、習氏による温室効果ガス排出削減、ならびに2060年までの「カーボンニュートラル」実現に向けた取り組みで採炭が伸び悩んでいる。

  国外からの受注が膨らむ中で、工場の電力需要は急増したが、石炭価格の上昇で電力会社は十分な燃料を確保できなかった。中国の石炭生産は1-8月に6%増える一方、石炭火力による発電は同時期に14%増加したため、石炭在庫が減ることになった。北部の一部地域では冬場の暖房需要期を控えて十分な石炭を蓄えておく必要もあり、燃料不足に拍車が掛かっている。

2.政府はなぜ採炭拡大を求めなかったのか

  実際には中国政府は要求したものの、それほど迅速ではなく、簡単でもなかった。経済政策全般の立案を担う国家発展改革委員会(発改委)は採炭各社に供給確保を促したが、習主席の環境対策や死者を相次いで出した炭鉱事故を受けて、炭鉱の新規操業・再開はいずれも強化された環境基準や現場の安全規則を満たす必要がある。また、中国当局はエネルギー生産全体に占める石炭の割合を下げる目標を設定したため、一部の金融機関が同事業への資金供給をやめたことも状況をさらに複雑にしている。

3.中国はなぜ石炭の輸入を増やさないのか

  中国は以前から主要な石炭輸入国となっているが、政治を巡る問題でオーストラリアのニューカッスル港からエネルギー効率の高い積み出し分の購入を昨年から取りやめており、散発的な不足を招いている。バイデン米大統領はインド太平洋地域における中国の影響力に対抗するため、豪州を含めた同盟国との結束を目指しており、対立が和らぐ公算は小さい。

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4.中国は再生可能エネルギーの活用を拡大できるのか

  中国は炭素を出さない資源由来のエネルギーの割合を段階的に引き上げ、25年までに20%とする方針だが、風力など再生可能エネルギー依存のマイナス面も一部表面化している。東北部では風力発電所からの突然の供給減少が電力不足の一因となり、9月には一部の住宅で停電。信号機も動かなくなり、交通が混乱した。

5.こうした問題はどの程度一般的なのか

  中国で電力の使用制限は工場を中心に通常の措置となっている。地方の送電網はピーク時には都市部の顧客を優先するため、製造拠点への電力供給を減らす場合がある。東北部の一部の省では、9月後半に工場向けの電力制限後に住宅や公共サービスでも制限措置が実施されており、電力不足が浮き彫りになっている。

6.中国の発電所は電力生産拡大に前向きなのか

  営業損失を抱えている状況であり、多くは前向きではない。石炭価格がかつてない水準に高騰しているにもかかわらず、電力会社が顧客に対して設定できる価格はほとんど政府が管理している。国営の中国能源報が今月報じたところによると、国内で最も効率的な発電所でも一部は赤字となっている。

7.電気料金が高くなれば中国経済にどのような影響があるか

  数十年にわたり安価で安定した電力供給に頼ってきた多くのメーカーは不満だろう。短期的には生産者物価がさらに押し上げられる可能性がある。商品価格の上昇を主因に8月は13年ぶりの高水準となった。中国政府はこうしたインフレ圧力によって景気回復が損なわれないよう取り組んでいるが、これまでのところ効果は限定的だ。

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8.中国は気候変動に関する目標を放棄するか

  その公算は小さい。共産党機関紙・人民日報は、エネルギー消費の制限に関するガイドラインや目標は約6年にわたり設けられており、今回の停電は地方政府による不十分な計画が原因だと主張。来年に党大会を控える共産党は今年11月に第19期中央委員会第6回総会(6中総会)を開く。習氏のカーボンニュートラルへの取り組みが重要な役割を果たすはずだ。

原題:Why China Is Facing a Power Crunch and What It Means: QuickTake(抜粋)