[深セン(中国) 29日 ロイター] – 2014年に故郷を離れたジェリー・タンさん(30)は、中国のハイテク産業の中心地であり、世界で最もホットな不動産市場のひとつである深センで不動産仲介業者となり、以前は満ち足りた生活を送っていた。

ほんの数年前まで、マンションの販売で多い月に5万元(7800ドル)も稼いでいた。それが昨年は月1万5000元ほどになり、今年はさらに5000元程度に落ち込んだ。しかもその大半は賃貸物件の仲介手数料だ。

「今年は物件を売りさばくのがものすごく大変だ。買い手は市場の成り行きを見極めようとしているし、不動産開発業者は資金繰りが苦しくなり、仲介業者への手数料支払いに時間がかかっている」と言う。

1760万人の人口を抱え、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)などハイテク関連の大企業の本社がいくつも置かれている深センでは、小規模な不動産仲介業者の事務所閉鎖が起きている。ロイターが取材した8つの仲介業者も、同業者の少なくとも3分の1が既に事業をたたんだか、閉鎖を検討していると答えた。

金融情報サービスの財新は9月、大手不動産取引プラットフォーム「鏈家(Lianjia)」の社内メモに基づき、同社が深センのオフィスの5分の1、約100カ所を閉鎖する方針だと報じた。鏈家と親会社のKEホールディングスはコメント要請に応じなかった。

深センの不動産市場が停滞し、仲介業者に影響が及んでいるのは、地元の当局がこの1年、物件価格をより手頃な水準にするため、2軒目購入の頭金を高く設定したり、転売価格に上限を設けるなど締め付け策を導入してきたことが一因だ。

しかし仲介業者によると、国内の不動産業界が信用危機に見舞われているのも原因の1つで、同業界の苦境がいかに広範囲に及んでいるかが浮き彫りになっている。過去40年間の中国の急激な経済成長を象徴する深センがこの流れに飲み込まれているならば、国内で影響を受けていない地域はほとんどないだろう。

中国の不動産市場は、指標によっては国内総生産(GDP)の4分の1を占める。しかし当局が今年に入って開発業者の過剰な借り入れを抑制する債務上限を導入し、かつてないほど苦しい状況に立たされている。

その結果、世界で負債額が最大の中国恒大や佳兆業集団など大手開発業者は資金繰りが危機的な状況に陥った。両社はいずれも深センに本社を置く。一方、政策当局者はこうした取り組みは必要な改革であると考え、見直すことはなさそうだ。

深センの10月の新築住宅価格は前月比で0.2%下落し、今年に入って初めて下がったが、これは全国平均と同じ。一方、国内の2級都市の一部で起きたような、小幅だが持続的な価格下落が生じるかどうかはまだはっきりしていない。

ハイテク都市である深センの経済規模は、同じ巨大都市の上海とほぼ同程度だが、土地の面積は上海の3分の1しかなく、マンションへの需要は根強い。この点は深センにとって有利だ。

「買い手は中国恒大やその影響を心配しているが、深センの買い手は他の不動産開発業者が必要に応じて開発計画を仕上げると分かっている」とタンさん。

一方、今回の規制強化とそれに伴う不動産市場の冷え込みで、投機的な不動産購入には終止符が打たれるかもしれない。中国は以前から投資手段が限られ、不動産はしばしば投機の対象となってきた。

投資業界で働くリサ・リーさん(30)は「親の世代は目をつぶって適当な物件に投資しても大きなリターンが得られた。ばくちが打てた」と語る。

最近小さなアパートを買ったリーさんだが、親のような買い方は怖くてできない。「私たちの世代にはそんなことはできない。面倒に巻き込まれることになるから」

しかし不動産仲介業のタンさんにとって、そんな正論は慰めにもならない。「彼女を見つけるには貯金が必要だし、故郷の母親を援助している」のが現実だ。タンさんは現在、転職を考えている。

(David Kirton記者)