リーディー・ガロウド

  • 上期の調達額30億ドル強、5年前の3倍-世界では規模なお小さい
  • 孫氏も日本勢に注目、中国の締め付けで投資家は新たな好機を模索

日本のスタートアップへの海外投資家の関心が高まりつつある。日本は起業後進国という汚名を返上し始めている。

  スタートアップ関連情報を提供するINITIALによれば、日本のスタートアップの資金調達額は2021年上期(1-6月)だけで30億ドル(約3400億円)を超え、5年前の同じ時期の3倍に増えた。セコイアやソロス・キャピタル、ピーター・ティール氏のファウンダーズ・ファンドなど潤沢な資金を持つ海外投資家による関心の高まりが追い風となった。ソフトバンクグループの創業者、孫正義氏率いるビジョンファンドも今年に入り日本のスタートアップに初出資した。  

  主要ベンチャー企業が日本などに新たな好機を求めるのは中国のテクノロジーセクターへの締め付けが一因だ。また、孫氏ら投資家は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がある意味で恩恵となったとみている。ズームを使ったビデオ会議が対面の会議に取って代わり、スタートアップの物理的な所在地はそれほど重要でなくなった。急成長する日本のスタートアップ市場を巡り、転換点を迎えたとの声も聞かれている。

  東京を拠点とするシードステージのベンチャーキャピタル(VC)、コーラル・キャピタルの創業パートナー兼最高経営責任者(CEO)、ジェームズ・ライニー氏は海外の大手投資家について、「これまでずっと日本には目もくれなかった」が、今では「スタートアップ市場としての日本により多くの関心を持っている」と語った。

  オンライン決済サービスの米ペイパル・ホールディングスは9月、日本のベンチャー企業Paidy(ペイディ、旧エクスチェンジコーポレーション)を3000億円で買収すると発表。日本のスタートアップとその投資家にとって好機到来が鮮明になった。関係者の話では、タイボーン・キャピタル・マネジメントは過去2年のペイディへの投資で約4倍のリターンを獲得。65倍のリターンを得た初期投資家もいる。

  日本企業について長年懐疑的だった孫氏でさえ、考えを変え始めている。2019年には日本のビジネスマンは「草食系になってしまった」と嘆いていたが、中国投資の不調を受けて投資先のさらなるグローバル化を図っている。

  この2カ月だけでビジョンファンドは日本のスタートアップ2社に出資。バイオテクノロジー企業のアキュリスファーマとスニーカーのマーケットプレースを運営するSODAだ。

  孫氏は11月の決算発表時の電話会議で、「3000社ぐらいの会社をパイプラインとして、常にディールフローを見ていますが、あまりにも日本の企業が少ないということで、かねてより私も、大変残念だと思っていた」として、「ぜひ日本の会社にも投資を増やしていきたい」と述べた。

  ベンチャーデータベースのクランチベースによると、上期のスタートアップの資金調達額は世界全体では2880億ドルに上る。依然として日本とは桁違いの大きさだ。

  CBインサイツのリストでは、日本で評価額10億ドル以上のスタートアップは16年には1社だけだったが、今では6社に増えた。カーライル・グループが出資するバイオ素材開発のSPIBERや人工知能(AI)ベンチャーのプリファードネットワークス(PFN)などが含まれる。

  ビジョナルの創業者、南壮一郎氏は創業から10年未満であって、上場して時価総額が現在10億ドルを上回る企業を全て含めれば、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未公開企業)の数はずっと多くなると指摘。ライニー氏らは「隠れたユニコーン」と表現している。

  南氏は日本での上場がいかに容易かと考えると、日本のユニコーン企業の数を海外と比較するのはやや不公平だと語った。東証マザーズ市場への上場時に求められる時価総額の要件は見込みベースでわずか5億円以上となっている。12月に入り上場した企業数は月間ベースで過去最多となる勢いだが、大半はバリュエーションが小さめだ。

A man holds a smartphone displaying the Mercari Inc marketplace application in an arranged photograph in Tokyo, Japan, on Monday, Aug. 6, 2018. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  新興企業銘柄で構成する東証マザーズ指数は今年に入り16%近く下落。ナスダック総合指数が約20%上昇しているのとは対照的だ。ただ、マザーズ指数で15%近いウエートを占めるフリマアプリのメルカリが年初来で約43%上げている点を踏まえれば、この数値さえパフォーマンスを過大評価したものと言える。

  恐らく日本のスタートアップで最も成功している同社の時価総額は現時点で90億ドル余りだが、海外のスタートアップと比べはるかに小さい。CBインサイツによれば、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)は1400億ドルに上る。オンライン決済サービスを手掛けるストライプや音楽配信サービスのスポティファイ・テクノロジーといった企業に世界展開やバリュエーションで日本勢がすぐに対抗できるようになる可能性は低い。

  それでもなおライニー氏は日本のスタートアップ市場に評価額100億ドル規模の「デカコーン」企業が向こう3-5年で誕生すると期待している。

原題:Venture Capital Cash Flows to Japan Following China Crackdown(抜粋)