【北京時事】中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が11日閉幕し、習近平国家主席(共産党総書記)の3期目入りが懸かる秋の党大会をにらみ、新指導部人事をめぐる駆け引きが本格化する。習氏が自らの側近をどこまで重職に起用できるかが注目される。焦点は、来年3月に退任する李克強首相の去就と後任人事だ。

 香港紙・明報は1日、消息筋の話として、上海市トップの李強・党委員会書記(62)が北京に異動し、後任に陳敏爾・重慶市党委書記(61)が就任するという見通しを伝えた。李強氏は習氏が浙江省トップだった時期の部下で、側近の一人と目される。歴代首相は副首相を経験しており、比較的若い李強氏が副首相に就任すれば次期首相の有力候補となる。

 また、丁薛祥・中央弁公庁主任(59)や蔡奇・北京市党委書記(66)について、明報は「さらに上に行く」と報道。それぞれ地方で部下として習氏を支えた両氏が、最高指導部を構成する政治局常務委員に昇格するという観測が出ている。

 2018年の全人代で国家主席の任期制限を撤廃した後、習氏は着々と3期目をにらんだ地ならしを進めてきた。李強氏らは今回の全人代で「習氏を核心とする党中央の指導の下、重大な成果を収めた」と習氏を称賛した。

 だが、米国との対立を深め、経済や社会の統制を強めてきた習氏に対する不満は知識人を中心に渦巻いている。不動産市況の冷え込み、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻が重なり、中国経済が一気に失速すれば、習氏の権威に傷が付きかねない。

 現時点で習氏に取って代わろうとする有力者はおらず、習氏の3期目入りは確実視されている。それでも、全人代では、習氏の長期政権に納得しない空気感を象徴するような光景が見られた。最高指導部メンバーが入場した際、拍手する壇上の幹部の視線は習氏ではなく、後方を歩く李首相に向いていた。国営新華社通信がこの場面の写真を配信すると、インターネット上では「習氏は(党幹部の)眼中にない」とやゆされた。

 李首相は3選を禁止する憲法の規定により来年3月に首相職を退く。経済運営の手腕が高く評価され、他の要職に転じる可能性があるが、「習氏は李首相を政界引退に追い込もうとしている」(党関係者)という見方は根強い。
 首相として最後となった11日の記者会見で、李首相は控えめながら、習氏に対抗する態度を見せた。習氏が長期政権に向けて掲げる、格差是正を目指す「共同富裕」(共に豊かになる)について問われたにもかかわらず、李首相は習氏に一切言及しなかった。2時間余りに及んだ会見全体を振り返っても、習氏に触れたのはわずか2回。習氏側近の栗戦書・全人代常務委員長が閉幕あいさつの約10分間で7回触れたのとは対照的だった。