市岡 豊大

17日の閣議で承認された防衛省の島田和久事務次官が退任する人事が政府・与党内で波紋を広げている。防衛省では島田氏が国家安全保障戦略など戦略3文書の改定作業が行われる年末まで留任すると目されていたからだ。人事を主導した首相官邸サイドは「就任2年での交代は慣例」と説明するが、首相当時、島田氏を秘書官として重用した安倍晋三元首相が岸田文雄首相との直談判に乗り出す事態となった。

「正直言って、あり得ない判断だ。功労者に対してそんなやり方では」

安倍氏は周囲にこう憤る。15日午後には東京都内のホテルで開かれた安倍派(清和政策研究会)の会合で、実弟で同派議員でもある岸信夫防衛相と次官人事について話し込んだ。

島田氏は平成24年12月から安倍氏の首相秘書官を約6年半務めた。次官就任後は防衛費の国内総生産(GDP)比2%を求める旗振り役となった。省内では戦略3文書改定の議論をまとめるため、年末までの島田氏留任は既定路線とみられていた。

だが、官邸が出した結論は、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を当てる人事だった。鈴木氏は島田氏と同期で、2代続けて同期が次官となるのは19年発足の防衛省では初めて。次官級の装備庁長官からの横滑りも異例だ。岸氏ら防衛省サイドは島田氏退任人事に反対したが、「任期2年」の慣例を主張する官邸の意向は覆らなかった。

16日午後1時半ごろ、安倍氏は議員会館の自室で首相と向き合っていた。防衛政策全般について意見交換する中で安倍氏は島田氏退任人事の再考を促したが、首相の答えは「ノー」だった。今回の人事について首相は周囲に「もう決まっていることだ」と漏らした。

「安倍氏への意趣返しではないか」(防衛族議員)との憶測もある。安倍氏は今年の経済財政運営の指針「骨太の方針」で、防衛費の大幅増額を主張。原案では注釈で触れたのみのGDP2%を本文に入れ、必要額達成までの年限を「5年以内」と明記させた。

官邸が安倍氏らの要求をのんだ形となり、島田氏が安倍氏に「助言」したという見方は官邸内に根強い。これに対し、岸氏は引き続き島田氏に戦略3文書改定に関与させたい考えだ。島田氏の次官退任は認めたものの、大臣権限で大臣政策参与に就任させる。

(市岡豊大)