家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる8月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月を2.8%上回りました。

2.8%の上昇率は7年10か月ぶり、消費税率引き上げの影響を除けば1991年9月以来、30年11か月ぶりの水準となります。

総務省が20日発表した8月の消費者物価指数は生鮮食品を除いた指数が、2020年を100として、102.5となり、去年の同じ月を2.8%上回りました。

上昇率が政府・日銀が目標としてきた2%を超えるのは5か月連続です。

2.8%の上昇率は2014年10月以来、7年10か月ぶり、消費税率引き上げの影響を除けば1991年9月以来30年11か月ぶりの水準となります。

一方、生鮮食品を含めた総合指数は去年の同じ月を3%上回っていて、上昇率が3%以上となったのは2014年9月以来7年11か月ぶり、消費税率引き上げの影響を除けば1991年11月以来30年9か月ぶりとなります。

物価上昇の主な要因は、エネルギー価格の上昇で「エネルギー」全体では去年の同じ月と比べて16.9%上昇しています。

個別に見ると、
▽電気代が21.5%、
▽ガス代が20.1%、
それぞれ上がっています。

また食料品の価格も上がっていて、「生鮮食品を除く食料」は4.1%上昇しました。

具体的には、
▼「食用油」が39.3%、
▼「食パン」が15%、
▼「輸入品の牛肉」が10.7%
▼「チョコレート」が9.3%と、
それぞれ上昇しています。

政府・日銀は2%の物価上昇を目標としてきましたが、日銀はいまの物価上昇は賃金の上昇を伴っておらず本来目指している形ではないとしています。

総務省は「原材料価格の高騰に加えて円安による輸入コストの増加などで物価の上昇が続いている。今後も電気代や食料品などの値上げが予定されていて引き続き、価格の動向を注視していきたい」としています。

楽器の相次ぐ値上げで小学校に影響も

楽器の相次ぐ値上げで小学校の吹奏楽部からは限られた予算の中で古くなった楽器の買い替えがすぐにできなくなるなどの影響を懸念する声が聞かれました。

東京・三鷹市の高山小学校の吹奏楽部は5年生と6年生合わせて90人が在籍しいまは11月の校内の音楽会に向けて練習を続けています。

児童全員が学校の備品の楽器を使って活動していますが、古くなったものも多く中には20年以上使い続けている楽器もあります。

古くなった楽器の中には側面が大きくへこんだり、音が出なくなったりするなど演奏に支障が出ているものもあります。

40年以上前に購入 鍵盤が割れて変色

吹奏楽部の児童からは「ピストンの部分がかたくなって動かない」、「へこんでいる楽器もあるので新しい楽器を買ってほしい」という声が聞かれました。

また、小学校の音楽の授業で使われるアコーディオンは、40年以上前に購入されたものもあり、鍵盤が割れて変色していました。

小学校では毎年、市の教育委員会から配分される予算の範囲内で必要な備品を調達していますが、机やいすなど子どもたちが授業を受けるために日々使用するものが優先になり、楽器の購入に使うことができる予算は限られています。

楽器の相次ぐ値上げで購入がさらに難しくなり、古くなった楽器をすぐに買い替えられなかったり、新しく部に入ってくる児童の楽器を確保できなかったりするのではないかと学校は懸念しています。

吉村達之校長は「もともと楽器は値段が高いものが多く学校の予算の中で購入するのは簡単ではないし、値段が上がればさらに購入が難しくなる。現在、ほかの小学校から借りている楽器もあるが、それも限界があり、吹奏楽部の活動にも影響が出てくるのではないか心配だ」と話しています。

10月から40万円以上値上がりする楽器も

埼玉県川越市の楽器販売店は、国内外のメーカーから仕入れたおよそ3000点の楽器や付属品を取り扱っています。

販売店によりますとことしに入ってから銀や銅といった金属や木材などの原材料価格の高騰や円安の影響でメーカーの価格改定が相次ぎました。

それに伴い、店頭での販売価格についてもトロンボーンやクラリネットなどほとんどの楽器で5%から20%ほどの値上げをしました。

新型コロナの感染拡大で吹奏楽部の活動が制限され、コンクールや演奏会が中止になったことで楽器の需要が減ったうえ、値上げによってより価格の低い楽器が求められるようになったといいます。

このため店の1か月の売り上げが感染拡大前と比べて3割から4割ほど減少する月もあるということです。

さらに10月からは大手楽器メーカー・ヤマハがサックスやフルートなど14種類の管楽器およそ240点を平均で8%値上げします。

また、プロの演奏家に人気がある海外メーカーのホルンが来月から40万円以上値上がりするなど値上げに歯止めがかからない状況となっています。

販売店ではSNSで値上げする楽器の情報をこまめに発信して値上げ前の駆け込み需要をねらったり、中古品を安く提供したりするなど売り上げを増やすための工夫をしています。

楽器販売店を運営する会社「ウインズ」の宇田川智裕取締役営業部長は「楽器の相次ぐ値上げで購入に必要な予算がどんどん上がってしまうことになるので買い控えにつながるのではないかと心配している。この先どうなるのか不安だ」と話しています。

「日本一の芋煮会」使用のしょうゆも

山形県では、いま、郷土料理の芋煮を河原などで食べる芋煮会のシーズンとなっています。
芋煮に欠かせないしょうゆの製造会社も原材料価格の高騰などで対応に頭を悩ませています。

総務省の調査によりますと、しょうゆの年間支出額で山形市は令和3年までの3年間の平均で1世帯当たり3104円。
全国の県庁所在地と政令指定都市の中で1位となっています。

しょうゆの消費を後押しする要因の1つはまさに、いまがシーズンの芋煮。

山形県内陸部の芋煮はしょうゆ味がベースとなっているからです。

江戸時代の創業で178年の歴史がある山形市のしょうゆ製造会社「丸十大屋」は、18日3年ぶりに開かれた「日本一の芋煮会」で主力商品のだしじょうゆが使われるなど、製造するしょうゆが県民に長年愛用されてきました。

14年ぶりの値上げ

この会社では去年、原料の輸入大豆の価格が大きく高騰し、大手メーカーが値上げに踏み切ったこともあってことし4月、しょうゆの価格を5%から10%値上げしました。

実に14年ぶりの値上げでした。

コスト上昇 再び値上げ検討も踏み切れず

しかし、その後も続くウクライナ情勢の緊迫化によって原料となるアルコールや小麦なども価格が上昇。

今月16日時点の価格は去年の秋に比べると、アルコールが49%輸入大豆が15%、小麦が12%、それぞれ値上がりしたほか、電気代とガス代も年間で合わせて600万円ほど増える見込みとなっています。

こうしたコストの上昇で再び値上げをしたいという考えはあるものの、現時点ではまだ踏み切れないといいます。

値上げした直後のことし4月の売り上げは去年の同じ月に比べて半分ほどに落ち込んだこともあり、再び値上げすると客離れにつながるのではないかという懸念があるからです。

佐藤利右衞門社長は「値上げを行うと消費者の動きが止まるのでどこまで我慢できるかだ。春に値上げしたばかりなので、したくないとは思っているが、今後の状況をみないと何とも言えない。値上げはしないように努力はしたい」と話しています。

都内のスーパー 10月以降さらに値上げ

東京・江東区のスーパーでは、ことしの春以降、小麦を使った麺やパン、それに食用油などの商品を値上げしています。

これまでに値上げしたのは店頭で販売する商品のうち、生鮮食品を除くと半数ほどに上るといいます。

さらに、仕入れ先などからは10月以降、マヨネーズやお酢などおよそ400品目について値上げをすると伝えられているということです。

買い物に訪れていた60代の女性は「電気代や食費が上がっているのでエアコンの使用を減らしたり、おかずの品数を減らすなどしています。家計は厳しさを増していると感じます」と話していました。

また、70代の男性は「世界的な影響なのでしかたがないとは思っていますが値上げが落ち着くことを願っています」と話していました。

「たつみチェーン豊洲店」の村松義康店長は「この半年の間、毎日のように何かしらの商品を値上げしています。値上げによって店を訪れるお客が減り売り上げも減少してしまう可能性があります。電気代などのコストも増えていて店の経営的にもかなり厳しい状態です」と話していました。

専門家「30年前 物価上昇も賃金はそれ以上」

ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「日本は長い間、デフレが続いていたが、こんなに早く3%近く物価があがるというのは想定していなかった事態で、それだけ円安などがかなりの勢いで進んでいることを示している。原油や穀物の価格が国際的に高騰し円安が輸入品に影響して幅広い品目で物価が上がっている」と話しています。

そのうえで今後の見通しについては「10月には生鮮食品を除く指数でも前年同月比で3%を上回り、年内は3%前後で推移するとみている。円安にある程度歯止めがかかり、原材料費の高騰が落ち着けば物価上昇率の安定につながると思う」と話していました。

また、消費税率引き上げの影響を除くと30年11か月ぶりの水準となったことについては「30年前は物価が上昇していたが賃金はそれ以上に上がっていたので、家計にとっては実質的な収入は増えていた。一方で、あしもとでは物価の上昇に賃金の伸びが追いついていなくて、実質的な収入は目減りしてしまっているのが大きな違いだ。これは消費の抑制の要因になり、景気を悪くして悪循環に陥りやすい」と指摘しています。

「企業の収益を還元し賃上げで好循環を」

このため、斎藤経済調査部長は「企業の業績が上がっても、働く人の賃上げが進まないことが日本経済の課題だ。値上げで厳しい状態にある家計を救う大きな道筋は、企業の収益を還元し、賃上げを進めていくことだ。そうすれば、賃上げ率が物価の上昇率を上回り、好循環が生まれてくると思う」と話していました。

賃金の伸び 追いつかず

ことし8月の消費者物価指数は5か月連続で2%を超えましたが、物価上昇に対して賃金の伸びは追いついていないのが現状です。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によりますと、働く人1人当たりのことし7月の現金給与総額は速報値で平均37万7809円と、去年の同じ月と比べて1.8%増えました。

ただ、物価の変動を反映させたことし7月の実質賃金は去年の同じ月を1.3%下回り、4か月連続でマイナスとなりました。

物価の上昇に対して賃金の伸びが追いついていない状況が続くと、個人消費の冷え込みにつながるおそれがあり、専門家などからは景気への悪影響を懸念する指摘が出ています。

家庭への負担 10月はさらに増える見込み

原材料価格の高騰や円安を受けて、10月には多くの食品や飲料で値上げが予定されていて、家計への負担はさらに増えると見込まれます。

民間の信用調査会社「帝国データバンク」は国内の主な食品メーカーや飲料メーカー105社を対象に調査を行い、8月末時点での各社の値上げの動きをまとめました。

それによりますと、10月に値上げする予定があるとした食品や飲料は、6532品目に上り、9月のおよそ2.7倍(2424品目)に増える見通しです。

10月は食品や飲料の値上げのピークとなる見込みで、家計への負担はさらに増えると見込まれます。

中小企業の半数以上が価格に十分転嫁できず

「消費者物価指数」が2%を超える伸びを続ける中、さらに高い伸びになっているのが企業どうしで取り引きされる原材料などのモノの価格です。

企業どうしで取り引きされる原材料などのモノの価格を示す「企業物価指数」と、私たちが買うモノやサービスの値動きを示す「消費者物価指数」の伸び率を比べると差がみられます。

8月の「企業物価指数」の速報値は、去年の同じ月と比べた上昇率は9.0%と高い水準が続いています。

「消費者物価指数」の2%台の上昇率と比べて開きがあり、企業側が仕入れコストの上昇分を吸収し販売価格にすべてを転嫁しきれていない可能性を示しています。

東京商工会議所が8月都内の中小企業を対象に行った調査では、原材料価格の高騰や円安の進行などにより増加したコスト分をこの1年でモノやサービスの価格に転嫁したかどうか尋ねたところ、
▼「全く転嫁できていない」と回答した企業の割合が22.9%、
▼「転嫁できたのは半分に満たない」が29.7%となり、
全体の半数以上が(52.6%)増加したコストの半分も転嫁できていない実態が浮き彫りになりました。

中小企業の中には、コストを十分に転嫁できずに、経営が圧迫されているケースが少なくないことがうかがえます。

世界各国では高いインフレ

日本に比べて世界各国では高いインフレが続いています。

アメリカでは8月の消費者物価指数が去年の同じ月と比べて、8.3%の上昇となり、上昇率は前の月と比べて小さくなりましたが、記録的な水準のインフレが続いています。

また、アメリカでは8月の労働者の平均時給は、去年の同じ月と比べて5.2%上がり、賃金の上昇傾向が続いています。

人手不足を受けた企業の賃上げが物価を押し上げていることがうかがえます。

また、8月の消費者物価指数はイギリスでは9.9%の上昇となったほか、ドイツやフランスなどユーロ圏19か国では9.1%の上昇と、統計をさかのぼれる1997年以降で最大の伸び率となっています。

日本では世界各国と比べて高いインフレは起きていません。

国内の企業の間では価格に転嫁できていないケースが少なくないとみられ、コストの上昇分を価格に転嫁することで適正な利益を確保し従業員の賃上げにつなげていくなどの経済の好循環をつくることができるのかが課題となっています。