総務省が20日に発表した8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は、前年同月比2.8%上昇した。前月の2.4%上昇を上回って2014年10月以来の伸び率となった。この伸び率は7年10か月ぶり。消費税率引き上げの影響を除けば1991年9月以来、実に30年11か月ぶりの高い伸び率となった。この記録を見て意外なことを思い出した。91年9月といえばバブル崩壊が始まった頃である。これより前の日本は不動産バブルの真っ盛り。狂乱物価ならぬ不動産バブルの宴に酔いしれていた頃である。物価のピークが91年9月ということは、バブルの最中でも日本の物価は安定していた。その物価がバブル崩壊を受けてマイナスに転じた。デフレの影響といえばそれまでだが、この30年間、日本の物価は基本的に安定していたことになる。その物価がここにきて急激な上昇をはじめた。

米国や欧州は死に物狂いで物価の沈静化に努めている。政府と中央銀行が足並みを揃えて物価の沈静化に努めている。FRBは20日、21日とFOMCを開いて政策金利の引き上げを行う。日銀も今日から金融政策決定会合で議論を始める。ECBは8日の理事会で0.75%の利上げを既におこなっている。岸田政権は20日の閣議で3兆4847億円の予備費の拠出を決めた。新型コロナ対策ならびに原油価格・物価高騰対策に使用する。このほかに住民税非課税世帯に対して5万円を給付する貧困対策も検討している。就任間もない英国のトラス首相は巨額の国費を投じて家計のエネルギー支援に乗り出そうとしている。世界中の国々がインフレ対策に知恵を絞っている。欧米各国は財政政策と金融政策の二本立て、これに対して金融政策に頼れない日本は財政だけが一本足で物価の急騰に対峙しようとしている。

日本には依然として大きな需給ギャップが存在している。日本経済研究センターの岩田一政理事長によると、需給ギャップはマイナス3%を超えているという。日銀副総裁も務めた同氏は、「金融政策はインフレ阻止と景気後退回避の二兎(と)を追うことはできない」と説明する。そのせいだろうか、黒田総裁はインフレを犠牲にして「異次元緩和」固執する。かくして日本では円安が進み、輸入インフレが加速する。欧米のようにインフレに連動して賃金が上昇すればまだしも、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長によると「30年前は物価が上昇していたが賃金はそれ以上に上がっていた。(今回は)あしもとでは物価の上昇に賃金の伸びが追いついていなくて、実質的な収入は目減りしてしまっている」と指摘する。再分配の強化を経済政策の柱に掲げる岸田首相の反応がいまいちはっきりしない点も気になる。