[東京 26日  ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は26日、為替の急速な変動が日本経済に与える影響に懸念を示した上で、政府・日銀による22日の介入は「適切であった」と評価した。市場から円資金を短期的に吸収する円買い介入と、円の供給を増やす金融緩和は矛盾しないとの認識も示した。財政政策と金融政策は目的や効果が異なっているからこそ補完が可能になるとし、改めて金融緩和を継続する必要性を強調した。 

大阪経済4団体共催懇談会後に記者会見した黒田総裁は、「一方的、急速な変動は日本経済にとって好ましくない」と述べ、22日に政府・日銀が実施した円買い介入は過度な変動に対する必要な対応として実施されたものであり、「適切であった」と語った。

金融緩和で日本の金利が低下し、ドルに対して円が売られやすくなる中、円安を止めるために介入するのは政策の整合性が問われかねない。矛盾しないかと会見で問われた黒田氏は、「そういうことは全く考えていない」と発言。財政政策と金融政策は「目的や効果が異なっているからこそポリシーミックスが可能になる」とし、金融緩和を継続することで経済の回復を支え、賃金上昇を伴った物価目標の実現を目指していくと述べた。

22日の金融政策決定会合の後、一時1ドル=146円直前まで下落した円相場は、介入を経て140円前半に急騰した。週明けは143─144円付近で推移しており、黒田総裁は「今でも(ドルは)142円から143円ぐらいで動いているので、効果がなくなったということはない」と話した。政府は介入規模を明らかにしていないが、市場では約3兆6000億円との推計が出ている。

<政策金利の指針発言、一部軌道修正>

このほか黒田総裁は、2─3年は金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)の変更はないとした22日の発言を一部軌道修正した。「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」という政策金利のフォワードガイダンスは「感染症にひもづいたもの」だとし、「必ずしも2―3年という長期(のもの)というわけではない」と語った。

黒田総裁は、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的質的金融緩和を物価目標が持続的・安定的に実現するまで継続することや、マネタリーベースについて消費者物価の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続することは「両方、微調整があったとしても金融緩和を継続する方針だ」と指摘。7月の展望レポートにおける物価見通しが2023年度、24年度と2%を達成する見通しになっていないことを理由に挙げた。

10年金利の許容変動幅の拡大は「明らかに金融緩和の効果を阻害する」として改めて否定した。

総裁は22日の金融政策決定会合後の会見で、当面は政策金利の引き上げもフォワードガイダンスの変更も考えていないと強調し、フォワードガイダンスの変更は2―3年はないと踏み込んだ。その後に円が急速に売られた。

<海外経済の下振れリスクに警戒感>

記者会見に先立つ懇談会では、海外経済の下振れリスクに警戒感を示し、経済の下振れリスクが顕在化した場合には「当然、必要に応じて、躊躇(ちゅうしょ)なくいろいろな緩和手段を打ち出す姿勢を明確にしている」と語った。

経済の先行きについては、供給制約の緩和や個人消費の底堅さなどで「今後も回復を続ける可能性が高い」との見方を示し、政府による入国制限緩和で「インバウンド需要の回復も期待される」とした。

しかし「先行きを巡る不確実性、とりわけ下振れ方向のリスクが従来にも増して大きくなっている」とも指摘。海外経済について「世界的な利上げの動きがどの程度の減速をもたらすのかといったことを含め、下振れリスクが大きい点には注意が必要だ」と話した。

(和田崇彦 編集:田中志保、久保信博)