先週末、米国の11月雇用統計が発表された。非農業部門新規雇用者は26万3000人増と予想を上回った。10月のCPIが前年同期比+7.7%に低下したことを受け、一時的に強まったインフレのピークアウト感が再び揺らぎ始めている。原因は物の値上がりではない。賃金上昇に伴うコストプッシュ型インフレへの懸念だ。日本は来年の春闘での大幅な賃上げが危ぶまれているが、米国では人手不足に伴う人件費の上昇が続いている。11月の雇用統計では1時間あたりの平均賃金の伸び率が前月比で0.6%上昇した。この3カ月をみても9月は同0.3%、10月0.4%、そして11月が0.6%no

急騰。こうした動きについてロイターは「この流れは、人手不足が一層の賃上げを促し、それがモノやサービスの価格に波及するという意味で、インフレの高止まりを持続させかねない」と懸念している。

FRBは10月のCPI低下を受け13日と14日に予定しているFOMCで、政策金利の引き上げ幅を0.75%から0.50%へ引き下げると見られている。矢継ぎ早に実施された利上げを受けて、米国経済が景気後退に陥る可能性に対する警戒感が強まっていた。金融引き締めが行き過ぎて米国経済がリセッションに陥るようなことがあっては、もともこもない。利上げ幅を少し緩めて景気の実態を確認する。FRBの関係者からはそんな思惑が漏れ伝わってきた。タカ派的な利上げの継続が、金融当局に余裕をもたらした。その余裕が11月の雇用統計によって消滅しそうな雰囲気だ。「積極的な利上げを続けているものの、多くの産業で採用活動を抑え込めていない。10月末時点の求人件数は1030万件で、新型コロナウイルスのパンデミック前に比べて約50%も多く、失業者1人当たりの求人件数は依然として2件近くある」(ロイター)。

要するにインフレと労働需給のイタチゴッコが続くのだ。F R Bは政策金利を引き上げ、加熱ぎみの経済活動を抑え込もうとしているのだが、人手不足を背景に企業の求人意欲は一向に衰えない。求職者より求人者の方が2倍も多い。必然的に賃金は上がる。そして今度は賃金上昇がコストプッシュし、連鎖反応しながら経済全体にインフレが波及する。当初のインフレは、原油価格の高騰やコロナの収束に伴う需要回復に起因していた。それがようやく一段落しそうになって今度は、賃金が上昇圧力を強めている。かくしてインフレは高止まりし、収まりかけた物の値段に再度圧力をかけ始める。行き着く先はスタグフレーションか。日本のゼロ金利政策の見直し論も強まってきた。結局、日米ともに行き着く先は人手不足の解消。賃金が上がらない日本。賃金の上昇に歯止めがかからない米国。どちらに経済合理性はあるのだろうか?