先週末、バイデン大統領にとっては頭の痛い大ニュースが連続して発生した。一つは米金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻。もう一つがイランとサウジアラビアの国交回復だ。こちらを仲介したのは中国。前者はバイデン大統領の看板政策でもある投資拡大の先頭を走っていた金融機関の突然の退出。コロナ、ウクライナ戦争と要因は単純ではないが、サプライチェーンの混乱や原油高を背景としたインフレを抑えることを目的とした政策金利の矢継ぎ早の引き上げが、破綻の直接的な原因となった。後者はバイデン政権のサウジ敵視策が裏目にでた外交的失敗。この2つのニュースを見ながら、米国という大国の脆弱な一面が垣間見えた気がした。米国だけではない。ロシアを含め二つの大国は予想を超えるスピードで衰退していくのではないか、そんな予感が頭をよぎった。世界は確実に多極化している。中国がその一端を担うことは間違いないだろうが、それが世界に平和をもたらすかどうか、よくわからない。

SVBはベンチャーキャピタル(VC)が集めた莫大な資金を受け入れ、スタートアップ企業に融資してきた。融資を受けた企業は、余裕資金を同行に預け入れる。さらにベンチャー育成を目指す米政府の援助資金も同行に流入する。銀行にとって貸出に必要な原資は弄せずして大量に集まってくる。余った資金は世界一流動が高く、かつ、安全な米長期国債で運用される。加えて米民主党やEUが積極的に推進しているESG投資も同行の躍進を支えてきた。カーボンニュートラルを銀行運営の主要ポリシーに掲げれば、必要な資金はいくらでも集まる。かくして時代の最先端をゆく金融機関としてSVBは躍進を続けてきた。そのSVBがあっという間に破綻したのである。バイデン政権は破綻の連鎖を防ぐために矢継ぎ早の対策を打ち出した。SVBの個人預金者を完全に保護すると発表。連鎖破綻したニューヨークを拠点とするシグネチャー・バンクも閉鎖、必要な資金を銀行に提供する「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」を導入することも即決した。

米国経済を支えるスタートアップ企業。それを取り巻く最先端の金融システム。米国を象徴するスキームだ。そのスキームの一端があっという間に破綻した。米当局はいまのところシステミックリスクに発展することはないとしている。だが、ブルームバーグによると米財務省高官は、「同様の問題を抱えている金融機関が複数ある」ことを認めている。ウクライナ戦争で米国とロシアという大国が衝突している間隙を突いて、中国がサウジとイランの国交回復の仲介をする。大国抜きだ。まるで最先端の経済を支える米国の最も得意とする金融システムに綻びが見えたことに合わせるかのように、古くからある“大国の権威”が音を立てて瓦解していく。SVBの破綻は脱炭素の先行きにも暗雲をもたらしそうだ。仇敵ともいうべきイランとサウジの国交回復は、地球の秩序に地殻変動をもたらす可能性もある。バイデン大統領ならびに米国はどう巻き返すのだろうか。