[東京 20日 ロイター] – 日銀が20日に開いた支店長会議では、賃金について、人手不足感の高まりや物価上昇を受けて、中小企業でもベアを久しぶりに実施するなど「賃上げの動きが広がっている」との報告が多かった。会議後に記者会見に臨んだ支店長からは、賃上げの持続には価格転嫁や生産性の向上が重要になるとの指摘が出された。

今年の春闘の第4次集計では、定期昇給込みの賃上げ率が3.69%。物価高を反映し、エコノミストの予想を上回る賃上げ率になっている。賃金上昇を伴う2%物価目標の実現に向け、中小企業への波及や賃上げの持続性が焦点になる。

中島健至大阪支店長(理事)は、賃上げが関西地方の中小企業に波及しているのか「統計の発表を待ちたい」と述べるにとどめた。一方、広島鉄也名古屋支店長は中小企業の賃上げについて、現時点の情報を踏まえると「大企業より多少伸び率は落ちるものの、例年に比べてかなりしっかりした伸び率になる」と話した。

松野知之札幌支店長は、収益環境が厳しい中で「小幅な賃上げや賞与で対応する企業が多数派だ」と述べた。

賃上げの持続性について、広島名古屋支店長は、コスト高の転嫁や生産性向上が進むのかが重要な要素になるとの声が中小企業から聞かれると述べた。

<生産性向上へ労使が合意、来年の賃上げへ布石か>

中島大阪支店長は「過去にないマグニチュードでコストの価格転嫁が進んでいる」と指摘。「物価や賃金は上がらない」との固定観念の転換を「期待させるいろいろな動きが出てきているのは事実」と話した。

浜田秀夫福岡支店長は、生産性向上に向けた取り組み強化で労使が合意した事例を紹介、「来年以降の賃上げもありうるという含意があるように感じている」とした。こうした動きの背景には物価上昇が来年も続くとの予想があるとして「マインドチェンジが始まっているのではないか」と語った。

植田和男総裁は総裁就任後初めて支店長会議に臨んだ。2005年に審議委員を退任して以降、18年ぶりの出席となる。植田総裁は冒頭、経済・物価を取り巻く不確実性がきわめて高い中で「本支店から寄せられるミクロ情報の重要性は一段と増している」と述べた。

<景気判断は7地域で据え置き>

日銀が同日公表した地域経済報告(さくらリポート)では、全9地域中7地域で景気判断を据え置いた。供給制約の緩和や個人消費の持ち直しで東海の判断を引き上げる一方、東北は半導体生産の弱含みで判断を引き下げた。資源高の影響などを受けつつも、供給制約や新型コロナウイルス感染症の影響が和らぐ中で、いずれの地域も「持ち直している」、「緩やかに持ち直している」と総括した。

需要項目別で、個人消費は北海道・北陸・東海・近畿・中国・九州沖縄の6地域で判断引き上げ。支店長会議では、物価高を背景に消費者の生活防衛意識が強まる一方で、感染症の影響緩和で「サービス分野を中心に売り上げが増加している」との報告が多かったという。

生産の判断引き上げは東海の1地域のみ。広島名古屋支店長は「半導体調達の不安定さは足元でもまだ残っているが、生産への影響は全体として緩和に向かっている」と指摘した。ただ、東北・北陸・関東甲信越・近畿・中国・四国・九州沖縄の7地域で判断引き下げ。7地域の判断引き下げは2020年7月以来。世界経済の減速が影響した。

(和田崇彦 編集:宮崎亜巳)