随意契約による備蓄米の放出でコメ価格を大幅に引き下げる−江藤前農林水産大臣の失言を受けて登場した小泉大臣の鶴の一声で走り出した備蓄米の放出。連日テレビを見ながら気になることがある。全国に広がった備蓄米の放出に連なる長蛇の列だ。今月初めにこの欄で店頭に並ぶ長蛇の列を見て「愕然とした。驚愕の光景だ」と書いた。全国に広がった備蓄米の店頭販売、長蛇の列は今も変わらず続いている。改めてこの列を見て感じるのは、高齢者が多いことだ。販売開始の何時間も前から順番とりで並んでいる人もいる。5月31日に大田区にあるイトーヨーカ堂で始まった備蓄米の店頭販売。価格はブランド米の半分以下。小泉大臣によると「コメ離れを防ぐための価格抑制策。スピード感を持って備蓄米が全国に行き渡るように行政としても対応に全力をあげる」と表明していた。約2週間が経過した。状況は変わったのか。
コメの流通価格に若干の変化が出ているようだ。卸売業者が過不足を調整するスポット市場で、コメ価格に値下がり傾向が出ているという。とはいえ、備蓄米の大量放出によるブランド米への影響はいまのところほとんどない。ここがこの先大幅に下がるのか高値圏を維持するのか、備蓄米放出を急ぐ小泉大臣の評価のポイントになるだろう。コメ担当大臣を自称する小泉大臣の問題意識は、急激な値上がりで負担を強いられている消費者対策の優先だ。参院選を控えている。政治家としては当然の発想なのかもしれない。だが、低価格で売り出される備蓄米に並んでいるのは大半が高齢者だ。食べ盛りの子供を抱え、なおかつ共働きの世帯は、列に並ぶ余裕すらないだろう。もちろん同居する祖父母が代役を買って出る家庭もあるだろう。だが、すべてがそうだというわけではない。低価格米を最も必要とする世帯は、列にも並ぶ余裕すらない。これが実態だろう。
生産者はこの事態をどんな気持ちで眺めているのだろうか。生産者にとっては価格は高いほうがいいに決まっている。だが、高くなりすぎるとブランド米離れが起こる。高すぎるのも痛し痒しだ。理想は生産コストに利益をプラスした安定価格。だが、小泉大臣は価格の引き下げにこだわってMA(最低輸入量=ミニマムアクセス)米の入札を今月27日に開始すると発表した。例年に比べ3カ月も早い。専門家によるとこの発表に生産者は動揺しているという。価格が下がれば25年散米への影響が避けられないのだ。こちらを立てればあちらが立たず。スピード感を出したいのは理解できるが、小泉氏はあまりにも市場メカニズムを無視し過ぎている。小泉氏だけではない。自民党や裏に控える財務省の緊急対策、いつも中長期的視点と総合性を欠く。参院選を前に給付金の検討も始まったようだ。ダメな為政者の典型だ。「急いては事を仕損じる」。