今週は日米の関税交渉にほぼこの欄を費やしてきた。主要メディアの報道をみても、両国担当者の緊迫感はそれなりに感じるのだが、何が問題になっているのか交渉の具体的な中身は一向に伝わってこない。報道機関の取材能力が乏しいのか、当局の情報管理が厳格なのか。その代わりと言ってはなんだが、状況証拠だけは山ほどある。これらを整理するだけで交渉が難航している現状が透けてみえる。状況証拠その1。日経新聞が6月末に、中国が販売しているフェンタニルの対米輸出拠点が、名古屋市内にあったとスッパ抜いた。事実なら大特ダネだ。その2、赤沢担当大臣が9日の上乗せ関税の停止期限を前に、7回目の訪米。日程を延長したにもかかわらず、交渉の統括責任者であるベッセント財務長官に会えないまま帰国した。何のための訪米だったか。帰国後同氏は「アポなし訪米」と協調している。担当大臣だ。アポなし訪米を繰り返すこと自体が異例で異常。何が起こっているのか。
赤沢氏の帰国後、トランプ大統領は日本に対する不満を爆発させた。1日に同氏は適用を一時停止している上乗せ関税について、「9日の猶予期限を延長する考えはない」と明言した。日本については、「極めて大きな貿易赤字を抱えているため、30%や35%、あるいはわれわれが決める数字」の関税を課すことになるだろうと主張。「合意に至るかどうか分からない。日本と合意できると思えない。彼らは非常に手ごわい」と述べた。SNSでは一部の国際政治アナリストが「米国では米国債の最大の保有者である日本が、関税交渉の切り札として米国債の売却を匂わせている」との解釈がひろがていると指摘する。これがトランプ氏のいう「非常に手ごわい」裏付けかも。そういえば5月ごろにこんな話があった。加藤財務大臣が売却を示唆する発言をし、そのあと訂正している。日本は高関税の撤廃に向けて米国を“脅している”ことになる。
これが手ごわさの証拠だとすれば、金融不安に拍車をかける可能性もある。トランプ大統領と対峙する日本政府の「覚悟」が問われることになる。3日にベンゼンと財務長官は「今月の参院選が合意の大きな制約となっている」(時事ドットコム)との見方を示した。また、CNBCテレビのインタビューで「日本は今、厳しい状況にある」と語り、交渉が行き詰まっていることを示唆した。参院選が合意の制約ということは、選挙に大きな影響を与えるということだ。それはなにか?思いつくのは「コメの大量輸入」。備蓄米の放出の裏で密かにトランプ氏とのディールが進んでいる可能性も。これはまさに「不都合な真実」ということになる。総理は昨日NHKの番組に出演、「(トランプ大統領には)誤解に基づくもの、あるいは間違った情報が入っているのかもしれない」、「(交渉)分野は多岐にわたるが、一つ一つ着実に前進している」と説明した。状況証拠が杞憂に終わればいいのだが、総理のこれまでの発言に一貫性はほとんどない。