• 発信はトランプ流、台湾発言で波紋も失言で支持率低下避けたい状況
  • SNSの重要性は高い、多様化する発信方法の組み合わせ模索-高市氏

照喜納明美

高市早苗首相は就任から半年間、X(旧ツイッター)を使った情報発信を重視してきた。トランプ米大統領と似た手法だが、野党からは失言を避け、高支持率を維持するための「逃げ恥」戦略との見方も出ている。

  昨年10月21日の就任から半年間に行ったXへの投稿は、400回を超える。過去2代の首相と比べると圧倒的に多い。前任者の石破茂氏は同期間に約160回、岸田文雄氏は約200回だった。

  記者団への取材対応や国会での発言回数は多くはない。官邸のホームページによると、高市氏が20日までの半年間で首相官邸ロビーなどで行われる短時間のぶら下がり取材や会見を行ったのは43回と、岸田氏の約100回の半分以下だ。石破氏はわずかに多い47回だった。衆院選により開始が遅れた予算審議への出席時間も短い

  JX通信社の米重克洋代表取締役は、高市氏の対応についてメディアの主役がテレビからネットに変化したことを象徴しているとみている。 

Japan's Prime Minister Sanae Takaichi at Liberal Democratic Party's Annual Convention
高市早苗首相Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

逃げ恥

  テレビ局出身で、初当選当時に総務相だった高市氏のメディア対応に関心があったと語る国民民主党の伊藤孝恵参院議員は、高市氏の情報発信のやり方を「逃げ恥戦略だ」と分析する。

  高い水準を維持する内閣支持率が下がれば、党内での指導力が低下する恐れがあり、失言への恐れが高市氏の「発言の場所や内容につながっている」との印象を受けたと話す。

  新聞各社の世論調査で高市内閣は高い支持率を維持している。17-19日の読売で66%、18、19両日の朝日で64%、毎日は53%だった。

  民放ドラマの題名にもなったハンガリー語のことわざ「逃げるは恥だが役に立つ」には、逃げることは一時的には恥だが長期的には得策だという意味がある。

  取材対応回数が少ないことについて問われた高市氏は7日、記者団に対し、国民に必要な情報を伝える方法も多様化していると指摘。SNSは「国民の情報収集手段としての重要性が高まっている」との見解を示した。

  報道機関や国会にも重要な役割があり、「どのように組み合わせて情報発信することが最も良いのか」見いだしたいと説明した。その後は、13、14、15日にそれぞれ行われたパキスタンなど各国首脳との電話会談後、3日連続で記者団への取材に対応する場面もあった。

説明責任

  衆院選後の2月、高市氏が自民党所属の衆院議員にカタログギフトを配布していたと報じられた際も、X投稿を通じて弁明した。前任の石破氏は当選1回の衆院議員に商品券を配布したことが報じられると、同日夜にぶら下がり取材で記者団に説明し、質問を受けた。高市氏が国会で同問題をただされたのはX投稿の翌日だった。

  これに先立つ1月末には選挙演説で高市氏が、足元の円安によって外国為替資金特別会計(外為特会)の運用が「今ホクホク状態だ」と発言したと報じられた。野党から批判され、翌日には、「一部報道機関で誤解がある」とXに投稿。円安メリットを強調した訳ではないと釈明した。約6時間後には海外向けに英語でも発信した。

関連記事:高市首相、円安メリット強調した訳でない-「外為特会」巡る発言で釈明

  法政大学の白鳥浩教授(政治学)は高市氏は財務相や外相などの重要閣僚の経験がなく、中国が反発する台湾有事発言のように「国会の答弁が不安定」だったと指摘。衆院選後の自民党内での派閥回帰の動きを受け、自身の相対的なプレゼンス低下への懸念があり、高市氏は報道に「センシティブ」になっていると指摘した。

Japanese Prime Minister Sanae Takaichi Speaks During Election Campaign in Hyogo
衆院選で候補者の応援に立った高市早苗首相Photographer: Fred Mery/Bloomberg

  野党からは首相の姿勢を問題視する声も上がる。立憲民主党の小西洋之参院議員は首相が出席する予算委員会の集中審議や取材に対応する回数も少なく「国民に対する説明責任を果たしていない総理だ」と批判した。

  今月6日に都内で講演した石破氏は、つらい質問を受けることや映像を恣意(しい)的に切り取りとられることもあり「ぶら下がり取材に応じることは結構しんどい」と明かした。「それは承知の上で応じるようにしていた」と述べた。

引っ越し

  高市氏のフォロワー数はXで280万、YouTubeで87万人と日本の政治家の中でトップレベルだ。歴代首相は官僚や秘書官などが作成したとみられる官邸公式アカウントの投稿をリポストする例も多かったが、高市氏は独自の発信も目立つ。内容は政策の説明に限らず、公邸での日常をつづることもある。

  時には1000字近くの長文を投稿するなど、文章の長さも特徴だ。年始には公務に追われながら議員宿舎から公邸への引っ越しを行う様子を1184字にわたって記した

  7日の参院予算委員会で、国民の伊藤氏は高市氏のSNS戦略について質問した。高市氏は政権内でSNS発信について擦り合わせはしておらず「大層な戦略はない」と明かした。正しい情報をタイムリーに伝える必要がある時や、首相や政治家の仕事を身近に感じてもらいたい時に投稿していると語った。

トランプ氏

  JX通信と選挙ドットコムの調査によると、高市氏を強く支持する人ほどテレビや新聞を信用しない傾向がある。米重氏はトランプ大統領の支持層と似ていると指摘。現時点でネット上では、高市氏の取材対応が少ないことは大きな問題となっていないという。

  米重氏は「これからはそうも行かなくなってくる」と話す。就任前には活発に投稿していた動画もなく、現在も「ネット地盤」を維持しているのは保守系やリフレ派のインフルエンサーが高市氏を支持しているからだと見ている。

  ただ、MAGA(米国を再び偉大に)運動のインフルエンサーの間で広がるイラン攻撃やエプスタイン文書を巡る不満が、中間選挙を控えるトランプ氏の懸念材料になっている。同様に、高市氏のネット地盤が影響力のある人物に頼っている状況は「政権のリスクなのでは」と述べた。

  今後も高支持率を維持するためには「新鮮な素材をコンスタントに供給することだ」と述べ、視聴者と双方向のコミュニケーションが行えるライブ配信の再開などが効果的だと話した。