
[ワシントン 8日 ロイター] – トランプ米大統領が国内外で不評を買っているイランとの戦争から抜けだそうとする取り組みは、両国間でまた攻撃の応酬が起きたことで新たな障害に直面している。トランプ氏にとって適切な選択肢は乏しく、停戦の枠組み自体も崩壊しつつある。
ホルムズ海峡での商船攻撃への報復として米国がイランの複数の目標を爆撃した後、イランはバーレーンとクウェートの米軍拠点に攻撃を行った。これを受け、トランプ氏は8日、戦闘終結に向けて暫定合意した覚書は「終わった」と宣言し、新たな攻撃を命じた。
この覚書署名から3週間余り経過した中で発生した今回の衝突の激化が浮き彫りにしたのは、トランプ氏が包括的な和平合意を構築し、面目を保ちつつ戦争から撤退することの難しさだ。
複数の専門家の分析では、トランプ氏の選択肢は限られており、そのほとんどが好ましくない内容にとどまる。
報復としての意味合いを持つ限定的な攻撃を超えた大幅なエスカレーションは、全面戦争への逆戻りを招く恐れがある。トランプ氏は8日、今回の事態は「極めて迅速に」終結すると主張したが、原油の国際価格は約7%急騰した。
一方でトランプ氏がイランの挑戦的な態度を前に一歩でも退けば、イラン側に世界で最も重要な石油輸送航路であるホルムズ海峡をいつでも都合の良い時に支配できるという自信を深めさせることになりかねない。
トランプ氏は、イランを爆撃によって再び交渉のテーブルに引き戻し、自身の主な戦争目的として掲げた核開発の阻止について話し合いたいと考えているのかもしれない。しかし大半の専門家は、イランがトランプ氏の求めるような大幅な譲歩を行う兆しはほとんどないと考えている。
民主・共和両政権で中東交渉担当官を務めたアーロン・デービッド・ミラー氏は「トランプ氏は自らを窮地に追い込んでしまった。軍事的手段であれ外交的手段であれ、彼がイランから多くを得られる公算は小さいように見受けられる」と語った。
ホワイトハウスはコメント要請に回答していない。
<トランプ氏にかかる重圧>
トランプ氏が必死になって出口戦略を模索している背景には、数千人の死者を出し、国内経済に打撃を与え、11月の米議会中間選挙を数カ月後に控えて支持率を低下させている戦争を恒久的に終わらせるよう求める世論の圧力がある。
6月23日のロイター/イプソス世論調査によると、トランプ氏の支持率は34%に下落し、2期目の最低水準に戻った。これによって与党共和党が上下両院の多数派を維持できる可能性に暗雲が立ち込めている。
ほとんどの専門家は、覚書で定められた60日間の交渉期間内に両国が包括的な解決策を策定できるかについて懐疑的な見方をしている。覚書は最も困難な問題を先送りし、断続的な議論に委ねたが進展はほとんどなく、次回の交渉も不透明なままになっているからだ。
これまでに経済と軍事能力に大きな打撃を受けているイランも、米政府がイラン産原油の国際的な販売を認める免除措置を撤回したことで、高まる圧力に直面している。この免除措置撤回で、暫定合意による最大の成果の1つが台無しになった。
それでもなお、イランの強硬派指導者らはさらなる打撃に耐える構えを見せており、一部の専門家は、イラン側は将来の交渉に向けた地歩を固めることを目的として、あえて攻撃の応酬を誘発したのではないかとみている。
米国家情報会議で中東担当副責任者を務めたジョナサン・パニコフ氏は、このパターンが当面の間続きそうだと予想。現在米シンクタンクの大西洋評議会に所属するパニコフ氏は「事態が全面戦争に戻ることはないだろう。だが現在のデフォルト設定は『管理された不安定状態』であり、恒久的な出口が見当たらないまま暴力が繰り返されることになる」と警告した。
外交的な介入を避け、米国民の経済的懸念に集中するという公約を掲げて2期目の当選を果たしたトランプ氏は、今回の暫定合意を米国の輝かしい勝利として位置づけている。
それでも多くの専門家の間では、かつてイランの「無条件降伏」を要求していたトランプ氏が、しばしば変化する自身の戦争目的の多くで行き詰まっている、というのが一致した意見だ。
<くすぶる海峡管理問題>
今回の敵対行為再燃の根本には、暫定合意がホルムズ海峡の支配権という観点で何を意味するかという解釈の相違がある。戦争中、イランはこの海峡において世界の石油輸送量の2割を遮断する能力を見せつけた。
イランは、将来的に海峡を管理する役割を担い、手数料や通航料を徴収することさえ視野に入れているが、トランプ氏と米国のペルシャ湾岸同盟諸国は、自由で安全な通航への回帰を主張している。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・アルターマン氏は「イラン側は、トランプ氏が際限のない戦争に巻き込まれることを望んでおらず、湾岸諸国が正常化を切望していると読み切っている。彼らが賭けているのは、トランプ氏が数日間戦った後、湾岸アラブ諸国が彼に停止を求めるだろうという展開だ」と解説した。
近づく中間選挙や、戦争によるガソリン価格の高騰が有権者を共和党から離反させるのではないかという懸念も、トランプ氏に対する圧力となっている。
ジョンズ・ホプキンス大学の中東専門家、ローラ・ブルーメンフェルド氏は「かつてのフーバー大統領の経済失政の記憶にさいなまれているトランプ氏は、経済に集中する必要があることを理解している」と述べた。
ブルーメンフェルド氏が言及したのは、戦争を継続すれば、世界恐慌の始まりに政権を担った大統領のようになるリスクがあるというトランプ氏自身の主張だ。