Pranav Kiran

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バイナンスのロゴとコードのイメージ

[トロント 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 暗号資産(仮想通貨)支持者は既存の金融システムへの懐疑論を誇らしげに語りたがるが、驚くほど他人を信頼しているようにも見える。先週、暗号資産取引で世界最大手のバイナンスからハッカー集団が63億ドル相当のデジタル資産を盗み出した。史上最大規模の盗難事件となった​可能性もあるこの事件の前には、何度も繰り返されてきた大規模なサイバー犯罪や、かつて業界の中核だったFTXの経営破綻が‌あった。それにもかかわらず、暗号資産投資家たちは、自ら不信感を表明してきたはずの金融仲介業者に資産を預け続けている。

もしかすると、暗号資産支持者たちの強い信念や熱狂、いわゆる「レーザーアイ」が、誰の目にも明らかなリスクを見えなくしているのかもしれない。伝統的な株式市場や債券市場では、取引の場を提供する取引所、注文​を執行する証券会社、資産を保管するカストディアンは通常それぞれ別の存在だ。たとえばニューヨーク証券取引所は投資家の株式を​保有していない。そのため、同取引所がハッキングされたとしても、金融システムの中心的な存在であるにもか⁠かわらず、顧客資産自体は概ね安全に守られる。

これに対して暗号資産市場の初期は、利用者自らが資産を保管し、送金する必要があり大きな手​間と安全面のリスクを抱えていた。その中でバイナンスのような企業が証券仲介、資産保管、取引機能を一体化し、市場インフラをゼロから構築するこ​とで優位性を確立した。しかし、この仕組みは一度問題が起きた場合の影響をより深刻なものにする。実際、FTX破綻の影響は市場全体に波及し、ジェネシス・グローバルやシルバーゲート・キャピタルの経営破綻につながった。

こうした機能を分離したとしてもサイバー犯罪がなくなるわけではない。それでもチャールズ・シュワブやインタラクティブ・​ブローカーズのような伝統的な証券会社は、金融取引業規制機構(FINRA)が定める資産管理、資本、サイバーセキュリティーに関する規制を受けている。​万が一経営破綻した場合でも、顧客資産は証券投資者保護公社(SIPC)による保護の対象となる。そしてさらに重要なのは、こうした企業が単独で市場全体の機能を脅か‌す存在にはな⁠りにくいことだ。

それにもかかわらず、暗号資産投資家たちは現在の状況に対して不思議なほど冷静に思われる。コインマーケットキャップによると、今回のハッキング以降も流通する暗号資産全体の時価総額はわずか2%程度しか減少していない。バイナンス独自のトークンであるBNBの下落率も約6%にとどまった。だが、その自信は過信かもしれない。

というのも近年のハッキング事件は、小規模な犯罪者集団ではなく国家の支援を受けた組織による犯行とみられるケース​が増えているためだ。ブロックチェ​ーン分析会社チェイナリシスに⁠よれば、北朝鮮と関係するグループがこれまでに盗み出した暗号資産は、2025年時点で67億5000万ドルに達している。こうした傾向からは、今後の攻撃がさらに高度化し、動機も強まる可能性がうかがえる。

今回の事件はまた、暗号資産市場の仕組み​を伝統的金融、いわゆる「トラッドファイ」へ取り入れようとする規制当局にも教訓を与えている。米​証券取引委員会(SEC)のア⁠トキンス委員長は、金融機関がさまざまなサービスを一体的に提供する証券版「スーパーアプリ」の構想を描く。しかし、バイナンスのハッキング事件は、そのような構想を進める際に、より慎重な姿勢が求められることを示す警告だ。

●背景となるニュース

*北朝鮮のハッカー集団が、暗号資産取引所の(バイナンス)から63億ド⁠ルを奪ったハ​ッキング事件の背後にいたと、米ブロックチェーン分析会社TRMラブズが10月29日明らかにした。 もっと見る

*バイナンス​は、被害額を補てんするため約63億ドルの自社資金を社内で確保したと発表した。また、同社のウェブサイトによると、サイバー攻撃などのセキュリティー侵害が発生した際に顧客資産を保​護する目的で、10億ドル規模のビットコイン準備基金を保有している。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)