米韓の自由貿易協定であるFTAが大筋で合意した。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉と同時並行的に進んでいた米韓の交渉が一足早くまとまったわけだ。トランプ大統領にとっては11月の中間選挙に向け、具体的な成果をアピールできるまたとないチャンスである。さぞ喜んでいるだろうと思いきや、事態は別の方向に動き出しそうな気配だ。ブルームバーグによると同大統領は昨日オハイオ州の演説で、「北朝鮮と合意するまでそれ(米韓FTA)を先延ばしにするかもしれない」と発言。「なぜかと言えば、これは極めて強い切り札であり、私は全員が公平に扱われるようにしたいし、われわれは北朝鮮と非常にうまくやっている」と述べている。韓国よ、北朝鮮の非核化に向けてもっと協力せよということか。

米韓のFTAはもともと韓国の対米黒字の削減を目指したもの。アメリカ・ファーストに韓国がどこまで協力するか、世界中が固唾をのんで見守っていた。詳細は不明だが合意の内容は韓国が医療や福祉、教育といった分野で米側の要求を大幅に受け入れたものになっているようだ。韓国は個別交渉で脅しをかけるトランプ大統領の戦略にまんまとはまったのかもしれない。そんな心配をしたくなるほど米国側に有利な合意になっているようだ。そのFTAを北朝鮮との合意まで実施を先送りすると大統領は発言している。そしてブルームバーグはこの発言が、「ホワイトハウスの一部当局者にとって寝耳に水だった」と伝えている。いつものように大統領が周囲に相談することもなく、勝手に発言したというわけだ。

米韓のFTAにはもう一つ懸念がある。米国の輸出を有利にする「為替条項」が付属文書としてくっ付いているのではないかとの見方だ。周知のようにG20など国際会議では、自国の貿易を有利にしようとする自国通貨の安値誘導は禁止されている。米国といえどもこうした条項に表面だって異議を唱えることはできない。そこで個別の通商交渉の裏側で「為替の安定」という名目でドル安への誘導を図っているとの見方だ。仮に米韓FTAが付属文書付きで合意しているとすれば、その影響はいずれ日本にも及んでくる。貿易不均衡は為替によってかなり修正できる。むしろドル安に誘導したほうが貿易赤字の解消には手っ取り早い。これが本当だとすればトランプ大統領は金正恩委員長並みの独裁者ということになる。トランプディールには気をつけたほうがいい。