昨年末に発生した韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射事件について、韓国海軍参謀総長が問題を起こした駆逐艦の所属部隊を訪れ訓示を行なったと伝えられました。この内容について、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、韓国の「全面降伏」と分析し、この問題については、日本への謝罪なしでも「事実確認」で収めるべきとしています。

レーダー照射、韓国は沈静化を急ぐ

韓国の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した事件で、韓国側では表面的な強気の姿勢とは裏腹に、事態の沈静化を目指す動きが出ています。

「自衛隊機へのレーダー照射問題で、韓国海軍の幹部が駆逐艦の所属部隊を訪れて『いかなる状況にも国際法にのっとり、対応を』と訓示しました。

沈勝燮(シム・スンソプ)韓国海軍参謀総長は7日、韓国の駆逐艦『広開土大王(クァンゲト・デワン)』が所属する海軍1艦隊司令部を訪れ、『外国の航空機との遭遇などの偶発的状況にも国際法にのっとって対応しなければならない』と述べました。

自衛隊機に対して、韓国側から交信を行わなかったことなどを念頭に、現場部隊の不十分な対応を『叱責』したとも取れる発言ですが、韓国海軍はあくまで激励のための訪問だとしています。

また、韓国国防省は8日、友好国の航空機による威嚇飛行に対応するためのマニュアルを作成中だと明らかにしました」(1月8日、テレビ朝日)

いまのところ、韓国側は火器管制レーダーを照射した事実はないとの姿勢を崩していません。しかし、レーダー照射の前段階の手続きとなる「友好国の航空機」に対する飛行意図の確認を怠っていた点を海軍参謀総長が認めたことで、韓国駆逐艦側の落ち度を全面的に認めた格好になりました。最も避けたい日本側への謝罪をしないで済む形ながら、韓国側から着地点を探っていることが明らかになったと言えるでしょう。

実を言えば、私も7日に行われたある新年互礼会の会場で韓国政府の高官から声をかけられ、その言い分から韓国側が事態の収拾に苦慮していると感じたばかりでした。

韓国政府高官の発言は次のようなものです。①火器管制レーダーは照射していない②海上自衛隊の哨戒機がキャッチしたのはほかのレーダーの電波だ。この点は海軍参謀本部の高官に確認している③日本側は民間航空機の基準を適用して高度150メートル以上を飛んだとしているが、軍用機には飛行高度の制限はないので、逆に不思議に思っている。(反論動画の公開など)韓国側の対応はまずかったと思っている④両国の実務レベル協議の開催地をソウルにするか東京にするかで揉めており、これもバカげたことだ⑤なぜ駆逐艦があの海域にいたのか、われわれも不思議に思っている。北朝鮮漁船の救助には海洋警察の新鋭巡視船が派遣されており、駆逐艦は必要なかった。⑥安倍晋三首相は事件を支持率回復の道具に利用しようとしている。

この韓国政府の高官は、1の火器管制レーダーを照射していないという点について、譲ろうとしませんでしたが、2~4については抗弁するつもりはないようでした。

それでも私は1)について、日本側は周波数を提示できるが、それを否定できるだけの証拠を示すことができるのか、火器管制レーダーのアンテナが哨戒機に向けられているが、あれは敵対行為ではないのか、など問いただしてみました。

火器管制レーダーのアンテナについては、光学的に哨戒機を確認するための装置を使うためだったと弁明していましたが、その証拠画像はないということでした。

なぜ哨戒機に対して無線で呼びかけなかったのかと訊ねると、呼びかけたということでしたが、自信はなさそうでした。

短い時間の立ち話でしたが、2000人ほどのパーティー会場で面識がないはずの私を見つけ出し、私、つまり日本側の反応を探ろうとしている様子には、韓国側の焦りが感じられたものです。

そして、8日のニュースです。海軍参謀総長の言葉では、無線での呼びかけさえしていなかったことが明らかになっています。これは韓国側の全面降伏と受け止めてよいでしょう。

あとは政治レベルの対応です。文在寅大統領の姿勢次第ではありますが、河野太郎外相と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の電話会談で、「両国防衛当局が事実関係確認を含んでできるだけ早期にこの問題を解決するのがベスト(最善)ということに康長官と私の認識が一致した」(河野外相)ということなら、この問題についてはそれ以上の追及は無用でしょう。

それよりも、政府間で決着がついているはずの慰安婦と徴用工の問題については、日本は安易に韓国側の要求に譲歩することなく、それこそ原理主義的に政府間合意の履行を求め続ける必要があります。この頑固とも思える日本側の姿勢こそ、ポピュリズムを武器とする文在寅政権が苦手とするものです。石を投げても日本側がびくともしなければ、大衆は飽きてしまい、大統領支持から離れていくからです。いまの日本に、それができるかな。(小川和久)