厚生労働省は、がんの個別化医療を推進するため患者の遺伝情報(ゲノム)全体を網羅的に調べる「全ゲノム解析」の本格運用に乗り出す。特定のがん関連遺伝子を調べる遺伝子パネル検査に公的医療保険が近く適用される見通しだが、限られた遺伝情報だけでは新しい治療を見つけたり、診断法や薬を開発したりするのは難しいと判断した。政府・与党は「3年間で10万人の解析」を目標とし、今後関連予算を盛り込むよう調整している。

 パネル検査では、100個以上ある患者のがん関連遺伝子を解析装置で一度に読み解き、がんにつながる変異がないか調べる。がん関連遺伝子に変異が判明すれば、それに対して効果のある薬が見つかる可能性も出てくる。

 人間の遺伝情報を担うDNAは30億個もの塩基の並びで構成され、2万~3万個の遺伝子を含むとされる。政府・与党内には、100~300個程度の遺伝子を調べるパネル検査では「新薬開発に有用な情報が不十分」との意見が根強い。そのため、パネル検査を受けるタイミングに合わせ、全ゲノムの解析も同時実施するよう患者に促していく。

 具体的には、パネル検査のために患者の細胞を検査施設に送る際、患者の同意を得て全ゲノム解析を実施。得られた情報は、国立がん研究センター内にある「がんゲノム情報管理センター」に集約する。全ゲノム解析をすることで、がんと関連する新たな変異が見つかる可能性があり、将来的な治療や創薬につなげる。当面は患者に新たな費用負担を求めず、公費でまかなう。

 政府は、全ゲノム解析を用いた研究と治療の具体的な実行計画を年内にまとめる方針だ。個人の遺伝情報が全て解析されれば倫理的な問題が生じる可能性もあるため、個人情報の保護も合わせて取り組む。がん患者らの全ゲノム解析を「3年間で10万人」に行えるよう、必要な体制を整備する。政府・与党の試算によると、初期投資や解析費用に5年間で550億円程度が必要とされている。【酒井雅浩】