高英起  | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

トランプ米大統領と韓国の文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

在韓米軍特殊戦司令部での勤務歴がある米民主主義守護財団のデイビッド・マクスウェル上級研究員は最近、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)に、次のように語っている。

「韓国政府が協定を本当に撤回すれば、外交的孤立を招くだろう。日本に続き、米国との同盟関係まで損なわれることになる」

日本による半導体関連素材の輸出規制措置に対抗し、韓国政府が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を見直す可能性を示唆したことを受けての警告だ。米国からは韓国に対し、こうした警告が数多く出ている。

言うまでもなく、GSOMIAは韓国にとっても必要なものだ。GSOMIAでは、軍事情報の機密レベルの分類、情報伝達と破棄の方法、情報紛失時の対策などが決められおり、これに基づいて韓国と日本は軍事情報を直接共有している。日韓は同協定が締結されるまで、2014年末に日米韓の3カ国で交わした北朝鮮の核とミサイル関連の軍事情報を共有する覚書(MOU)に基づき、米国を経由して限られた範囲内で情報を共有していた。

韓国国防省は当時、「高度化、加速化、現実化している北の核・ミサイルの脅威などに対し、日本の情報能力を活用することで、われわれの安保利益を高めることができる。北の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に関連する情報を得るのに実質的に役立つと期待される」として、GSOMIA締結を積極的に推進していた。

そして、日韓を取り巻く情勢は、この時からさほど大きく変化したわけではない。

今月25日、北朝鮮は新型の短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射した。韓国軍の合同参謀本部は当初、これらの飛行距離を430キロとしていたが、後に2発のミサイルはそれぞれ430キロ、690キロ飛行したと修正。さらに26日になって、2発はいずれも飛行距離が600キロであったと再修正した。

このように分析結果が二転三転した原因は主として2つある。第1に、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を模倣したとされる北朝鮮のミサイルが、上昇後に下降して水平飛行するという、特異な動きをしたためだ。

そして第2に、日本海に向けて発射された北朝鮮のミサイルが、南から北方を監視する韓国の早期警戒レーダーの死角へ抜けて行ってしまったからだろう。

それでも韓国軍がミサイルの飛行距離を把握できたのは、「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に基づき日本側から提供を受けた情報が影響を及ぼしたといわれている」と、韓国紙・朝鮮日報は伝えている。韓国は北朝鮮のミサイル発射時の初期情報を、日本側は韓国のレーダーの死角地帯の情報を、それぞれ提供したのだという。

そして、こうした協力体制は、米国が弾道ミサイルから自国を守る上でも必要になる。

(参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

すでに、韓国側もGSOMIA見直しに言及しなくなっているが、このまま沈静化することに期待したい。