【香港時事】香港政府は4日、デモ隊の「覆面」を禁じる規則を施行するため、52年ぶりに「緊急状況規則条例」(緊急条例)を発動した。トップの行政長官に幅広い権限を付与するものだが、民主派は「独裁だ」と一斉に反発。民主的な立法手順を一部放棄する同条例の発動は、香港政府にとって「最終手段」である一方、欧米並みの法治社会とされてきた香港の地位失墜や混乱拡大に拍車を掛けるリスクをはらんでいる。

 約4カ月にわたって混乱が続く香港では、中国人民解放軍や人民武装警察部隊出動の可能性が取り沙汰されてきたが、実力部隊の投入は国際社会の批判を免れない。

 立法会(議会)の審議を経ず、行政長官の裁量で「公共の利益にかなったいかなる規則」も定めることが可能な緊急条例は、香港政府が中国に頼らず行使できる最も強力な手段だ。

 背景には、一向に事態が収束しないことへの政府の焦りがある。林鄭月娥行政長官は混乱のきっかけとなった逃亡犯条例改正案の撤回を表明し、対話姿勢を示してきたが、警察の実弾発射などを受け、警察や政府に対する市民の怒りは激しくなる一方だ。デモ隊が掲げてきた「五大要求」に「警察組織の解体」を加えた「六大要求」も唱えられるようになり、沈静化はさらに遠のいている。

 緊急条例の発動でデモ隊への取り締まり強化が容易になる半面、副作用は大きく、効果は未知数だ。デモの激化を見込んだシンガポール政府は4日、香港への不要不急の渡航中止を勧告。香港経済界からは「外国資本が逃げていく」と懸念の声が上がる。

 民主派は「今は覆面の禁止だけでも、いずれ通信や集会の自由まで奪う規則が出されかねない」「次は夜間外出禁止令だ」と警戒を強めている。香港は5日から3連休だが、連日複数のデモや集会が呼び掛けられており、混乱は必至だ。