厚生労働省は、いまは別々に管理している国民年金と厚生年金の積立金の統合を検討している。相対的に財政が安定している厚生年金の積立金を活用し、将来の年金水準が大きく下がる国民年金の底上げを図るのが狙い。ただ、制度の独立性に関わるため丁寧な議論が必要で、2025年の国会への法案提出を目指す。

 政府は来年の通常国会に、厚生年金のパートらへの適用拡大などの年金改革法案を提出する方針。成立後の来年夏以降、積立金の統合について、厚労省は社会保障審議会(厚労相の諮問機関)で具体的な検討を始める予定だ。

 公的年金は、1階部分が国民年金(基礎年金)、2階部分が厚生年金になっている。財政管理は別々で、それぞれ保険料収入の一部を積立金にして、将来の年金支給に備えている。17年度末の国民年金の加入者は約1505万人で、18年度末時点の積立金は約9兆円(時価ベース)。一方、厚生年金は約4358万人で約157兆円だ。

 今年8月公表の年金財政検証では、夫婦2人のモデル世帯が19年度に受け取る国民年金と厚生年金の合計額は、現役世代の平均収入の61・7%(所得代替率)だった。少子高齢化にあわせて収支のバランスをとるために自動的に年金水準を引き下げる「マクロ経済スライド」が終わるのは、代表的なケースでは厚生年金が25年度だが、国民年金は47年度まで続く。47年度時点の所得代替率は50・8%に下がるが、水準低下の度合いは厚生年金(基礎年金を含む)が約2割なのに対し、国民年金は約3割も下がる。

 国民年金は今でも、満額で月6万5千円ほど。保険料の納め方次第でさらに少なくなるため、無年金・低年金対策が課題となっている。厚労省は、国民年金と厚生年金の保険料や年金支給の仕組みは変えずに、積立金を統合することを検討。統合によって収支のバランスが取れる時期をそろえ、国民年金の引き下げ終了を早めれば、国民年金の所得代替率は、積立金を統合しない場合よりも数ポイント上がると見込む。自民党が5日にまとめた年金制度改革の提言でも、国民年金の底上げについて検討すべきだと指摘している。(山本恭介)