きのう政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が開かれ、最近の情勢や今後の対応策などが話し合われた。その中で安倍首相は会議の最後にマスクの配布に触れている。「全国で5000万余りの世帯全を対象に、日本郵政の全住所配布システムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布することといたします」(官邸HPより)と。品薄状態のマスク対策であり、これに異論を挟むつもりはないが、この発言に違和感を感じるのは私だけだろうか。安倍首相のために付言すれば、この会議では他にも色々と重要な対策が検討されている。その中で最後にマスクに触れているのだが、この発言が全体の5分の3近くを占めている。それによって布マスクにかける首相の意気込みが自ずと浮き上がってくる。

危機に際して政府や官僚、専門家を批判するのは簡単だ。私も曲がりなりにメディアに身を置いていた人間であり、批判することを職業とする仕事につきまとうある種の限界と割り切れなさ、葛藤みたいなものがいつも頭の片隅をよぎっている。最近はできるだけ批判をしないように心掛けているつもりだが、それでも一種の職業病だろう、安全地帯に身を置きながら相手を痛烈に批判したくなる時がある。安倍首相のマスク発言を読みながら、“悪い癖”がムックと頭をもたげてしまった。布マスクを全戸に2枚ずつ配布する、なんじゃそれ?これって緊急事態の発動が懸念されている昨今の情勢下で、政府の会議で長々と首相が言うことだろうか。厚労省の課長クラス、あるいは官邸なり内閣府の係長クラスがレクすれば済む話ではないか。

ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授はきのう、自分のホームページで「5つの提言」を発表した。世界的に注目されるiPs細胞の生みの親である。本来なら新しい細胞の研究・開発に専念すれば良いはずだが、現状の政治対応の拙さを見かねたのだろう、自ら政治的な発言を買って出た。詳しくは同教授のHPを参照してほしいが、提言1は「今すぐ強力な対策を開始する」である。後手を踏む政府の対応に学者として言わざるを得なくなったのだろう。私なりに読み替えれば「布マスクも大事が、もっと大事なことがある。それを早急にやれ」と言うことだ。国会答弁で役人の書いた文章を棒読みする機会が圧倒的に多い首相である。自らの言葉で語った発言が「布マスク」では国民が救われない。