[東京 4日 ロイター] – 政府の成長戦略会議で民間議員を務める竹中平蔵・慶応義塾大学名誉教授は、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化する重要インフラ企業を支援するため、かつての産業再生機構のような救済組織を設置するのも一案との考えを示した。また、航空業界は世界的に再編が進んでおり、日本も長距離国際線は1社で十分との見方を示した。2日にロイターのインタビューに応じた。

竹中氏は、コロナ禍中で企業倒産や失業率が急速に悪化していないのは、「日銀や政府による資金支援や雇用調整助成金などの政策対応で止血ができているから」と指摘。一方、「この状態をいつまでも続けるわけにはいかない」と語った。金融機関には預金保険機構のようなセーフティネットが存在するが、他の産業の企業には存在しない。旧産業再生機構のような枠組みを議論することが必要」と強調した。

産業再生機構は、小泉純一郎政権下の2003年に発足し、07年に解散した政府出資の企業救済組織。経営が悪化した企業から債権を買い取り、公的管理の下で事業再生を支援した。カネボウやダイエーなど41件を扱った。

竹中氏は「地域経済活性化支援機構(REVIC)などの既存の枠組みを利用するか、新設するかは支援対象企業の規模などで議論することになるだろう」との見通しを示した。新たな枠組みで企業支援を行う場合は「民間金融機関の債権放棄などは必要になる」と指摘。「日銀による金融機関に対する支援も必要となる」と語った。

日銀が直接的に企業を資本支援することについては「すでに日銀は大量のETF(上場投資信託)も買っている」として、慎重な姿勢を示した。

与党内では、生活に大きな影響を与える「重要インフラ企業」への政府支援を求める声が多い。竹中氏は「どの企業がインフラ企業か線引きは難しい。大手交通機関は対象となるだろう。製造業は線引きが難しい」と述べた。

世界的に苦戦が目立つのが、国境をまたいだ人の往来が激減し、需要の早期回復が見込めない航空業界。日本でも日本航空(JAL)、ANAホールディングスの大手2社がいずれも今年度は大幅な最終赤字を見込んでいる。

竹中氏は「世界的に国際線路線は競争により寡占化が進んでいる」と指摘。「例えばJALは国内線とソウル・台北など隣国路線、長距離国際線はANAという住み分けが望ましい」との見解を示した。国内線は競争を残すべきとした。

JALはリーマン・ショック後の2010年に経営破たんし、民主党政権下で一時国有化された経緯がある。竹中氏は「JALの公的支援には個人的に反対だった。結果的に日本の航空業界全体が弱くなった」と語り、国内・国際線ともに手掛ける大手2社を結果的に温存したのは誤りだったとの見解を示した。

このほか竹中氏は、一部で批判が出ている年金に代わる現金給付制度、ベーシックインカム制度の導入案について、「一人平均7万円の支給を提唱している。あくまで平均で、財政負担などを考慮して7万円とした。7万円であれば大きな財政負担にならないと、元日銀審議委員の原田泰氏などが試算している」と説明した。

竹中氏は人材派遣大手パソナグループの会長も務める。パソナは電通とともに、一般社団法人サービスデザイン推進協議会を設立。同社団法人は今年、新型コロナで経営が悪化した中小事業者や個人事業者を支援する政府の「持続化給付金」事業を請け負い、その不透明な業務委託構造は社会から批判を浴びた。経産省は業務委託のルールを、電通は受託業務の取引方法を見直した。