きのう、東京財団政策研究所が主催した「『加速するエネルギー転換と日本の対応 プロジェクト』シンポジウム」に参加した。オンラインで実施されたセミナーで、主催者によれば参加者は約1000人だったという。最近はオンライ形式のセミナーがいたるところで開催されており、引きこもり気味の生活の中ではある種の刺激材になっている。新型コロナが巻き起こした一種の社会現象だが、私のような出不精者にはもっけの幸というか、多少の気晴らしを兼ねた勉強の機会になっている。シンポジウムのテーマはカーボンニュートラル。菅首相が昨年10月に開かれた臨時国会の冒頭、「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざす」と宣言したことで、取り組みが遅れていた日本国内の様々な関係者に火をつけた。それが今一気に燃え広がろうとしているのだ。

宣言自体は取り立てて意味のあるものではなかった。唯一の取り柄は米国より先にカーボンゼロ宣言したことぐらい。EU諸国をはじめ英国、中国、カナダ、豪州など主要国はすでに2050年までに脱炭素化を実現すると宣言済み。その実現に向けてすでにさまざまな取り組みをはじめている。先進7カ国の中では日本と米国だけが未宣言。米国はトランプ大統領が4年前にパリ協定を離脱、カーボンニュートラルにはやや非定期的だった。おまけに国内は大統領選挙でてんやわんやの大騒ぎをしている。じっくりと脱炭素に取り組む雰囲気はまるでない。そんな間隙を突いて菅首相は、臨時国会冒頭の所信表明演説で脱炭素宣言を行ったのである。一歩遅れれば逆に世界中から袋叩きにあうところだったが、かろうじてその一歩手前で“惨事”を免れた。国内の雰囲気も当時は、「そんなことできるはずがない」と否定的だった。

火力発電のクリーン化など環境対策という面で日本は絶えず世界をリードしてきた。その日本は太陽光や風力など再生可能エネルギーへの転換に遅れをとってきた。既存の電力会社による供給体制はきちっとしており、米民主党が掲げたグリーン・ニューディール戦略とは一定の距離を置いていた。ある意味でカーボンニュートラルの“後進国”だった。その日本の雰囲気が菅首相の宣言で一変した。民意がカーボンニュートラルに前向きになり、これに背を向けることがある種のリスクを伴う雰囲気になったのである。そんな環境の中でとりわけ企業が積極的になった。昨日のシンポジウムで驚いたことは、企業の意識の変化だ。目標実現に向け「いますぐ取り組まなければ間に合わない」、そんな雰囲気が企業社会に起こりつつあるという。個人的には政策転換の足を引っ張るのは、現状に固執する既得権者の発想だと思っている。菅首相の宣言は現状維持派の発想を転換させた。できる、できないではない。宣言すること、それが政策推進のエネルギーになっている。