東芝の昨夏の定時株主総会にかけられた人事案をめぐって、東芝と経済産業省が一体となって一部の海外株主に不当な圧力をかけていた、とする調査結果がまとまった。東芝が10日、依頼した外部の弁護士による調査結果として発表した。経営側と一部株主が対立するなか、総会には直接関係ない経産省が第三者の株主に経営側に配慮するよう働きかけていた、と認定した。

 昨年7月の総会では、その半年前に東芝子会社で発覚した不正取引を背景に、経営陣と、海外ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントなどの一部大株主が対立した。取締役の人事案で争い、経営側の提案が通った。

 その総会をめぐる外部調査の結果が10日、東芝から発表された。

 報告書によると、東芝の経営陣は、昨夏の総会を前に経産省に対し株主対応の支援を求めた。経産省は改正外国為替及び外国貿易法(外為法)の規制を交渉材料にエフィッシモなど株主側の人事案を取り下げさせようとした。「外為法の趣旨を逸脱して、提案権を制約しようとした」と報告書は指摘した。

 さらに東芝の事実上の依頼に沿って、経産省の当時の参与が東芝株主の米ハーバード大学の基金運用ファンドに投票行動の変更を事実上依頼。その結果、ハーバード側は議決権を行使しなかった、とも認定した。

 調査は、東芝役員への聞き取りや過去の電子メールを解析する「デジタルフォレンジック」などで行ったという。

 この報告書の指摘について東芝は「対応は後日発表する」としている。

 経産省は「内容を確認中」としている。経産省幹部は取材に対し、この報告書について「事実関係や評価に数多くの誤りがあり、東芝から報告を受けて指摘したい」と述べた。

 昨夏の総会をめぐっては昨年9月以降、その運営に疑義を投げかける海外報道が複数出ていた。報道は、経産省の当時の参与が米ハーバード側に接触し、経営側の意に沿う議決権行使をするよう働きかけていた、などとしていた。

「菅氏に対応説明したと推認」

 こうした状況を踏まえ、総会が公正に運営されたか調べるようエフィッシモが求め、今年3月の臨時株主総会で調査の実施が決まっていた。エフィッシモが選んだ外部の弁護士3人が東芝から調査を請け負う形になった。

 東芝は、原発や半導体、防衛装備なども手がけており、経産省などの省庁と関係が深い。政府などの今後の説明が不十分なら「企業統治の強化」をうたう政府の取り組みに影を落としかねない。日本企業への海外投資家からの視線も厳しくなりそうだ。

 報告書は、昨夏の総会に先立つ5月11日に、当時の車谷暢昭社長が、官房長官だった菅義偉首相との朝食会に出席し、その際、総会への対応を説明したと推認される、としている。

 7月には東芝幹部が菅氏と面会し、エフィッシモについて菅氏が「強引にやれば外為で捕まえられるんだろ」と発言した――。報告書は東芝幹部の経産省への報告を根拠に、そのようにも記している。

 菅首相は10日夕の記者団の取材に「全く承知をしていない」と否定した。

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東芝の昨夏の株主総会をめぐる外部調査の報告書骨子

・東芝と経産省は一体となり、改正外為法の当局の権限を背景に株主提案に対処しようとした。

・経産省の当時の参与が東芝の事実上の依頼に基づいて海外の大株主と協議した結果、大株主は、東芝が望んだ投票行動に沿う形で議決権を行使しなかった。

・東芝が株主提案権や議決権行使を事実上妨げようと画策したと認められ、株主総会が公正に運営されたものとはいえない。

・東芝の監査委員会は、ガバナンス上の重大問題の端緒に触れても行動に出ず、機能を十分に果たせていなかった。

「やや不当な関係性が見受けられた」

 東芝の株主総会運営に関する調査結果を公表した前田陽司弁護士や中村隆夫弁護士らが10日夜、オンラインで記者会見を開いた。主なやりとりは次のとおり。

 ――昨年5月の車谷暢昭社長(当時)による菅義偉官房長官(当時)への報告で確認されたやりとりは。

 中村氏「朝食会に向け、ペーパーを作るなど準備していた。何かしら説明したと推測される状況だ。具体的にどんな話だったかは認定できていない」

 ――調査結果であぶり出された問題は。

 中村氏「株主の権利を大切に扱うべきだという規範があるが、昨年の株主総会に向けた東芝の動きではないがしろにされた。原因究明を十分に行う時間はなかったが、問題提起は社外取締役の監査委員会の牽制(けんせい)機能がどうしたら働くか。もう少し掘り下げると、示唆や教訓を得られると感じている」

 ――東芝と経産省の関係性にも問題があるか。

 中村氏「東芝が監督官庁である経産省と近い関係を業務でいかすのは責められるものではない。ただ、株主の権利行使を事実上妨げる形で、やや不当な関係性が見受けられた。決して良い関係だったとは言えない」

 ――首謀したのは誰なのか。

 中村氏「誰が実際に主導したかは具体的には(認定にまで)至っていない。車谷氏は自分が主導したというのはあり得ないと話したが、信用することは難しいと考えている。具体的に認定できる資料には触れられなかった。調査の限界でもある」

 ――調査に東芝などは協力的だったか。

 前田氏「調査拒否はなく、とくに東芝は協力してくれた。何か隠したという心象はなかった」

 ――抵触する疑いのある法令とは。

 中村氏「公務員の守秘義務に関連する部分がある。その場合、国家公務員法になると思う」

 ――報告書には原因究明や再発防止策が書かれていない。

 中村氏「不祥事があったとき、原因究明して再発防止策を提言するのが、第三者委員会の使命として一般的だと思う。今回は、株主総会が公正に行われたかを調査するのが委託された課題だ。調査のスコープに原因究明と再発防止策がなかった」