経済産業省は昨日、カーボンニュートラルの土台となる電源構成の素案を公表した。菅首相が就任早々に打ち出した2050年にCo2の排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの土台になるものだ。電源構成とは日本の電力需要を賄う発電構成のメドを示したもの。カーボンニュートラルを実現するための柱を示し、実現可能性を国内外に宣言する極めて重要な指標だ。日経新聞(Web版)によると素案は、Co2の排出量を2013年比で46%削減するために、30年の電源構成比率を①再生エネで36~38%(現行目標は22~24%)②原子力で20~22%(現行目標維持)③水素やアンモニア(温暖化ガスを排出しない)による発電で1%(現行はゼロ)④火力で41%(同56%)の構成を提示している。再生エネの比率を増やすのは当然としても、原発事故で構成比率が落ちている原子力の比率を現状維持のまま据え置くなど、専門家の間からも“帳尻合わせ”との批判が出ている。

ありていに言って2050年にCo2の排出量を実質ゼロにできるかどうか、専門家の方が懐疑的だろう。世界の流れは、ゼロ実現が至上命題だ。パリ協定から離脱したトランプ大統領時代ならいざ知らず、バイデン大統領の登場で気候変動対策は米国の最重要課題になった。ドイツ・ハンガリーの国境をまたぐ洪水、中国でもいま河南省で「100年に一度」と言われる豪雨で大きな被害が出ている。異常気象に伴う被害は地球規模で頻発しており、その数は数えたらキリがない。それだけにカーボンニュートラルの実現は待ったなしだ。できるか、できないか、選択の余地はない。やるしかない、これが現実的な選択だ。日経新聞にはエネルギー政策に詳しい橘川武郎国際大教授のコメントが載っている。「リアリティーに欠け、大きな禍根を残すのではないか。(電源構成案に)反対する。率直にいって帳尻合わせだ」と手厳しい。同氏は総合資源エネルギー調査会のメンバーでもある。

何が帳尻合わせなのか。はっきり言えば、できないことを「できるかのように見せかけている」点だ。まず第1は再生エネルギー。「できるならもっと早くからやれよ」と言いたくなる。地球温暖化が叫ばれて久しい。だがエネルギー政策を所管する経産省は、火力発電の炭素排出量削減には注力してきたものの、太陽光発電など再生エネの導入を積極的に推進してきたとは言い難い。東電の原発事故を契機に再生エネ推進に方針を切り替えたものの、コスト高や敵地が少ない国土、洋上発電に不向きな海洋、様々な理由をこじつけて再生エネの推進をサボタージュしてきた。そうした現実に目を瞑るかのように再生エネの構成比率を一気に拡大した。素案といえども「本当にできるの」、疑問符が頭の中を駆け巡る。原発はいま何機稼働しているのだろう。構成比率を実現するために停止中の原発をすべて稼働させるのだろうか。魂が入っていない素案そのものが、帳尻合わせの証明でもある。