伊藤純夫、藤岡徹

  • 今は「異常な円安」、物価上昇圧力増大で家計部門にさらなる痛手
  • 黒田総裁下の政策修正難しい、新体制は共同声明の見直しが優先課題
早川英男氏 Photographer: Akio Kon/Bloomberg

元日本銀行理事の早川英男氏(東京財団政策研究所主席研究員)は、10年国債金利を誘導目標とする日銀のイールドカーブコントロール政策が為替変動を増幅し「異常な円安」を招いていると述べた。過度な為替変動を回避するためにも、目標年限を徐々に短期化して政策正常化を進める必要性を指摘した。

  早川氏は7日のインタビューで、海外市場で現在の米金利上昇のようなショックが発生した場合、通常は国内金利と為替相場の変動が国内市場への影響を吸収するが、YCCで長期金利をゼロ%程度に固定している分だけ為替変動が大きくなる「為替振幅の拡大策になっている」との見方を示した。米国が金融緩和に転じれば急激に円高が進む可能性もあるとし、「制度の仕組みが悪い」と断じた。

  7日には一時1ドル=144円99銭と1998年8月以来の円安水準を更新し、円の対ドルでの年初来下落率は変動相場制が導入された73年以降の年間下落率との比較で最大となった。インフレ抑制のため利上げを進める米連邦準備制度理事会(FRB)と金融緩和を継続する姿勢の日銀との金融政策の違いが大きく影響している。

  早川氏は、従来はエネルギーと食料が中心だった物価への上昇圧力が「今後は円安の影響がウエートとして高まってくる」とみる。消費者物価の前年比上昇率の3%超えは「十分にあり得る」とし、社会保険料や消費税率の引き上げもあって「過去10年以上にわたって痛めつけられた家計部門にとって、今の激しい円安は絶対に良くない」としている。

  YCCからの出口戦略としては、目標年限を徐々に短期化することに加え、現在ゼロ%を中心に上下0.25%程度としている長期金利の許容変動幅の段階的な拡大を挙げた。金利低下の経済や物価への効果は2年など短い年限の方が有効との分析結果も踏まえると、目標年限の短期化を進める方が「自然だと思う」と述べた。

  黒田東彦総裁が金融緩和を続ける重要性を繰り返し強調していることを踏まえ、金融政策の修正・変更は来春の正副総裁の任期満了に伴う新体制の発足を待つ必要があるとの見方を示した。黒田体制の下で修正・変更が行われる場合は「最後は政府が動くかどうかだ。国民がどれだけ物価高に怒りを覚えるかということになるだろう」と語った。

  新体制では2013年1月の政府と日銀による共同声明の「見直し、もしくは再確認が重要。スタートはそこからだ」と主張する。日銀は2%の物価安定目標の実現にこだわる一方、「政府は野放図な財政を続け、成長戦略にも取り組んでいない」と指摘。国民の物価上昇に対する不満は「経済成長や賃金上昇が伴わないのに無理やり2%だけ達成しようとするからだ」という。

  ブルームバーグの調査によると、次期日銀総裁は雨宮正佳副総裁と中曽宏前副総裁が有力視されている。候補者を指名する政権が前回と前々回の人事の安倍晋三元首相から岸田文雄首相に代わったことで、早川氏は「事実上、2人のうちのどちらかの選択になったのではないか」とみている。