[東京 28日 ロイター] – 22日の円買い介入を巡り、政府と日銀の間に政策の齟齬(そご)があるのではないかとの憶測が市場関係者の間で広がっている。両者とも矛盾はないと否定するが、円安のマイナス影響を懸念する政府に押し切られ、いずれ日銀は緩和政策の修正を迫られるとの見方は根強い。 

<証券会社に続々と問い合わせ>

金融政策決定会合後の22日午後、黒田東彦総裁は政策金利を当面引き上げる必要はないと発言し、円相場は1ドル=145円後半まで急落した。金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)も「2、3年は(変更)ない」と表明したことも円売りを誘った。

政府は円買い介入に踏み切ったタイミングを公表していないが、黒田総裁による会見終了後の午後5時ごろとされる。市場から円資金を短期的に吸収する円買い介入と、円の供給を増やす金融緩和は真逆の対応に映った。

「日本政府と日銀の政策は整合性が取れていないのではないか」──。在京の外資系証券関係者は、こうした照会が後を絶たないと明かす。

日銀側も政府側も、政策は整合的だと強調する。26日に大阪市内で会見した黒田総裁は、矛盾しないかと記者から問われ、「そのようには全く考えていない」と否定。財政政策と金融政策は「目的や効果が異なっているからこそポリシーミックスが可能になる」と語った。鈴木俊一財務相も26日の閣議後会見で、「(黒田総裁の)発言の中にも急激な円安に対する強い憂慮の念についての発言があった。(政府・日銀は)共有した認識を持っている」と話した。

政府関係者の1人は、「日銀は物価をターゲットに責任を持ち金融政策を運営し、それに伴う金利差が為替に影響すれば財務省が必要に応じて対応する。互いのすみ分けは出来ている」と解説する。

世界的な商品価格の高騰と円安で消費者物価は3%に迫る勢いながら、政府・日銀内では持続的な物価上昇に懐疑的な見方が強い。「賃金が上がらない中での物価上昇に対し、日銀が金融緩和を続けるのは当然」との声も政府内にはある。

<22日の発言を修正>

それでも、再び為替が円安に振れる中で煙はくすぶる。原材料高を理由に3月に価格を引き上げた日本マクドナルドとミスタードーナツは26日、再値上げを発表した。今回は円安の進展も理由の1つに挙げた。

「円安は経済にとってマイナスである、というのが政府の認識であることを考えると、本音では円安を止めたいと考えているのだろう。一方で日銀が金融緩和を続けているため、円安になりやすい」と、日銀審議員を務めた野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは指摘する。「両者の姿勢は矛盾しているというのが実態だ」と話す。

黒田総裁は26日の大阪市の会見で、円急落の一因となった22日のフォワードガイダンス維持発言を一部修正した。「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」という政策金利のフォワードガイダンスは「コロナ感染症にひもづいたもの」だとし、「必ずしも2―3年という長期(のもの)というわけではない」と語った。自らの退任後の金利政策について言及したことに対し、民間エコノミスト中心に批判がでた後の発言修正だった。

「世界的にインフレが問題になる中で、日銀は総裁の交代時期を迎える」と、日銀の考え方をよく知る関係者は言う。「トップが代わる時期は政策を修正するチャンスとなる可能性がある」

(木原麗花、山口貴也 取材協力:梶本哲史、竹本能文 編集:久保信博)