Clyde Russell

[ローンセストン(オーストラリア) 6日 ロイター] – 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が日量200万バレルの減産を決定したことは、決定そのものよりもそれに対する反応が示唆に富んでいる。 

予想を上回る減産は、買い手か売り手か、そしてどの時間軸で見るかによって、価格には強気にも弱気にもなる。

OPECプラスは、単に市場のバランスを取ろうとしているのか、それとも世界的な景気後退を引き起こすことが確実な水準まで価格を引き上げようとしているのかどちらかだ。

また、12月に欧州の輸入禁止措置が発動されればロシア産原油・精製品輸出が現物市場で実際にどうなるのか、さらに輸出価格上限が設けられる予定も現在の不透明感の一端だ。

OPECプラスの決定がもたらすであろう実際の影響とノイズ(雑音)を分離してみる価値はある。

まず、日量200万バレルの生産枠削減は、同量の世界供給減にはつながらない。これはOPECプラスがすでに8月に日量約360万バレルの生産枠未達に陥っていたことが大きな要因だ。

実際にどの程度の原油が失われるのかについてはさまざまな試算があるが、サウジアラビアのエネルギー相が実際の削減量は日量100万─110万バレル程度になると述べたことを起点にするのがおそらく最良だろう。

問題はこれが世界の原油市場にどのような影響を与えるかだ。

OPECプラスは明らかに価格が現在の水準で維持されることを望んでいる。5日の北海ブレント先物は1バレル=93.37ドルで終了し、減産決定を受けて約1.7%上昇したが、それでも6月中旬の120ドル水準を大きく下回っている。

世界経済がロシアのウクライナ侵攻の影響によるエネルギー高を主な原因とする景気減速に向かう中、OPECプラスは90ドル以上の原油に対処できるかどうかという賭けに出ている。

90ドル前後で安定すれば、2023年にかけて事実上インフレ算出から外れることになり、その結果、中央銀行は金融引き締めをやめることができ、世界経済の減速を緩和できるかもしれない。

しかし、中銀が利上げを続け、世界経済が大幅に悪化した場合、90ドルの原油は維持できなくなり、過去の世界的不況で起こったような無秩序な価格下落が起こる可能性が高くなる。

つまり、OPECプラスは世界経済が景気後退を回避できるかどうか、そして原油価格を90ドルの適正水準に維持できるかどうかを見極めるため、ある程度の時間が必要だと考えているのだろう。

<消費国の怒り>

しかし、このような戦略にはリスクが伴う。特に米国を中心とする消費国の怒りが高まっていることだ。

最大の輸入国である中国もOPECプラスの決定に満足していない可能性があることも指摘しておきたい。厳格な新型コロナウイルス規制や不動産部門の低迷、主要輸出品の需要減速でなかなか景気を押し上げられないためだ。

なお、アジアのほとんどの国では、ドル高を背景に燃料小売価格が依然として過去最高付近にある。この状況は米金融政策引き締めペースが他国よりも速いため今後も続きそうだ。

まとめると、OPECプラスの大幅減産がもたらしたものは全体的なリスクの増大だ。現在の、そして将来起こりうる世界経済の状況に対して、原油価格が高止まりする可能性が高まった。米国とサウジのような伝統的関係にもひずみが生じている。

政策立案者にとっては、ますます不安定で不確実な経済見通しの中でかじ取りが難しくなっている。

世界の石油市場の均衡を目指すだけだというOPECプラスの主張は、市場による価格設定を許容するのではなく、価格水準を目標としているように見えているため説得力に欠けている。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)