岸田首相が旧統一教会に対して、宗教法人法に基づく「報告徴収・質問権」の行使に踏み切った。これまで同権限の行使に慎重だった首相の突然の“変身”、理由はなんだろう。それを考えながら新聞を読んでみた。朝日新聞の2面には「窮余の一策」「支持率低迷 首相一転」「河野氏を意識 異例の調整」の見出しが踊っている。要するに首相は低迷する支持率を回復させるために、被害者家族や弁護団、一般国民の多くが求める質問権の行使に踏み切ったというのだ。である以上首相の腹は決まっている。行政上の各種手続きを経て最終的に旧統一教会の解散を請求する。解散請求ができないといった事態になれば、支持率の低下に拍車がかかる。結論が見えている。そう考えた瞬間、岸田首相の政治手法に潜む“危うさ”が頭の中で一気に広がった。質問権はオウム真理教事件を契機に、被害者やその家族を救うために整備されたものだ。その質問権を支持率回復のために使う、本末が転倒している。

支持率低迷に加え首相の焦りを誘ったのが河野消費者相の存在だ。8月初旬の内閣改造で任命された同相は、安倍元首相の銃撃事件で浮上した旧統一教会問題に対応するため、同月下旬には間髪を容れず消費者庁に「有識者検討会」を設置している。毀誉褒貶の多い河野氏だが、突破力という点ではこの政治家の右に出る人はいないだろう。つい最近も2024年秋に紙ベースの健康保険証を廃止するとブチ上げた。こちらはデジタル担当大臣としての仕事。機を見るに敏というか、的を射た決断を瞬時にできる。これがこの人と強みだろう。その河野氏が設置した検討会が「報告徴収・質問権」の行使に前向きな報告書をまとめたのである。朝日新聞によると「(岸田政権は)有識者検討会が打ち出す質問権の行使で足並みをそろえ、河野氏が主導する検討会提言の発表より先に首相が政府方針を公表する」段取りを考えたとある。河野氏は総裁選を争ったライバルだ。質問権の行使には支持率アップだけではなく、ライバルを封じ込める思惑も隠されていた。

聞く耳を持つ首相は表面的には温和な人柄に見える。だが新聞を裏から読むと「出る杭を叩きのめし、己の権力の安泰を優先する」というドロドロの本心が透けて見えてくる。本来あるべき被害者の救済は二の次ということだろう。安倍元首相の国葬に絡んで国民から突きつけられた不信感も、同じ根っこに由来している気がする。首相にとって安倍元首相をどう弔うかは問題ではなかった。国葬を主宰することで政権の評価を上げる。だから国会にも最高裁にも相談することなく、1人で内閣府設置法に基づく国葬儀の実施を決断した。岸田首相にとってすべての政策は政権を維持するための方策、こういったら言い過ぎだろうか。ライバルの封じ込めはともかくとして、支持率を上げるのは簡単だ。政権のためではなく、国民のための施策を強力に推進すればいい。それだけのことだ。岸田首相につきまとう本末転倒感、国民はそこを見抜いているような気がする。