[ワシントン/ロンドン 20日 ロイター] – 次世代の小型原子炉開発を進めている米企業が今、大きな問題を抱えている。それは、燃料として必要な高純度低濃縮ウラン(HALEU)を販売しているのが、ロシアの企業1社しかないという現実だ。

このため米政府は国内や西側のHALEU供給態勢の確立や、核兵器用に保存しているウランの一部利用を検討するなど対応を急いでいる。

小型モジュール式原子炉(SMR)と呼ばれる次世代原子炉は、米国をはじめ主要各国にとって温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、重要な役割を果たすともみられる。

米エネルギー省の広報担当者は「HALEUの製造は大事な使命で、増産のためのあらゆる取り組みが考慮されているところだ」と語った。

原子力発電所は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとするエネルギー危機の発生で再び評価が高まっている。特にSMRは運転効率がより高く、建設期間は短いので、脱化石燃料を加速できる、と推進派は主張する。

ただ、SMR開発企業は、HALEU確保のめどが立たない限り受注が見込めないと不安を口にしている。一方、HALEUの製造に乗り出そうかと考える企業も、SMRの受注が見通せないなら、商業的なサプライチェーン(供給網)構築には動きそうにない。

米エネルギー省の広報担当者は「持続的かつ市場主導型のHALEUの供給態勢を確立させるインセンティブを早急に与える行動が、不可欠なことは分かっている」と指摘。米政府は保有する585.6トンのうち、どれだけの量の濃縮ウランを原子炉向けに供出すべきかに関して、検討の最終段階にあると付け加えた。

大半の原発で燃料に利用されるウランの濃縮度は5%程度なのに対し、HALEUは最大20%まで高められている。ところが、現在のところHALEUを商用販売しているのは、ロシア国営原子力企業・ロスアトム傘下のテネックスしかない。

ロシアによるHALEU販売の独占は、かねてから米政府にとって心配の種だったが、ウクライナの戦争ですぐさま対応を迫られる事態になった。米政府もSMRを開発する米企業も、ロシアに燃料を依存するのを望んでいないからだ。

西側諸国の対ロシア制裁では、主に原子力産業に及ぼす影響の重大さに配慮してロスアトムは対象から除外されてきた。だが、X-エナジーやテラパワーといったSMR開発を手がける米企業は、やはりロシアのサプライチェーンに頼る気はない。

テラパワーの対外問題担当ディレクター、ジェフ・ナビン氏は「数カ月前まで燃料問題など存在しなかった。(ロシアの)ウクライナ侵攻後、われわれはロシア相手に安心して事業ができなくなった」と述べた。

<卵とニワトリの問題>

原子力は現在、世界の発電総量の約10%を占める。多くの国はエネルギー供給やエネルギー安全保障の強化、温室効果ガス排出量削減を目的として、新規プロジェクトを模索しているところだ。

ただ、大規模な原発建設は初期投資費用の大きさや工期の遅れ、予算オーバー、風力などより低コストのエネルギーとの競合といった問題から実現が難しく、複数の企業からはその代わりにSMRが提案されている。

仏EDFや英ロールス・ロイスなどが手がけるSMRは既存の技術および従来型原子炉と同じ燃料を利用する。これに対し、米政府が予算を拠出して開発されているSMRは、10基のうち9基がHALEUを燃料に想定している点が特徴だ。

推進派によると、このSMRは使用済み燃料の処理回数が少なくて済むため、従来型原子炉よりも3倍効率が高まる。専門家の間では、まだ商用規模での試験が続いている段階だが、いずれは従来型の原子力技術に取って代わると予想する声も聞かれる。

エナジー・イノベーション・リフォーム・プロジェクトが調査したHALEU使用のSMRの採算分岐コストを示す均等化発電原価(LCOE)は60メガワット時と、従来型原子炉の97メガワット時より低い。

HALEU使用SMRは大量生産による規模のメリットを享受する前の段階なので、この差は現時点ではもっと小幅になるとの見方もある。

そのHALEUについて、幾つかの欧米企業が商用規模の生産計画を持っているとはいえ、最も楽観的なシナリオでも実際に販売できるようになるのは、計画着手を決めてから少なくとも5年はかかってしまう。

こうした「卵が先か、ニワトリが先か」という悩ましい問題が、HALEUの供給態勢の円滑な整備を阻む要因と言える。

原発向けに低濃縮ウランを提供する米セントラス・エナジーのポネマン最高経営責任者(CEO)は「燃料の当てがなければ誰も原発10基を発注しないし、10基の受注がない状態で燃料調達に投資したくはない」と述べた。

実際、SMRに関心を寄せる公益企業は、まずは燃料が確実に手に入ることが採用する決め手の1つになるとみている。ワシントン州のエナジー・ノースウエストは電子メールで「信頼できるHALEU供給は検討すべき多くの要素の中に入っている」と説明した。

<HALEU製造のハードル>

ロシア以外の地域では、セントラスだけがHALEUの製造と試験用施設建設のライセンスを保有している。米政府は2019年、同社とコスト分有契約を締結。セントラスによると、本来は今年中にHALEUの製造に乗り出す予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う供給制約に起因する貯蔵コンテナ確保の遅れにより、製造開始は来年にずれ込んでいる。

施設が本格的に稼働し始めても、セントラスが年間13トンのHALEUを製造できるのは、その5年先になる見込み。それでもエネルギー省が2030年までに国内の原子炉に欠かせないとしている量の3分の1にしかならない。

例えば、テラパワーは同社製のSMRを稼働させるには、最初に15トンのHALEUが必要になると説明した。

ウラン採掘・濃縮を手がける仏国営企業オラノは5-8年以内にHALEUを製造することは可能としながらも、顧客と長期契約が結べる場合にのみライセンスを申請する方針だ。

米エネルギー省からHALEU供給支援に向けた計画をどう策定するかの情報を照会されたオラノは、この分野を産業として立ち上げられるかどうかは、米政府次第だと突き放した。「成功を確実にする最も大事な要素は、米エネルギー省が一定の需要を保証することだということが、当社の検証で判明している」という。

<時間切れ迫る>

テラパワーとX-エナジーは、米政府からコストを共有する形で2028年までに2基の試験用原子炉を建設する契約を結んでいる。しかし、ロシアからHALEUが手に入らないとすれば、代わりの供給態勢が整うよりはるか前に「時間切れ」となるのは間違いない。

HALEUの濃縮度は20%と核兵器用の約90%に比べればずっと低いが、製造には特別なライセンスが必要。製造場所や輸送などでセキュリティーや身分証明の基準も満たさなければならない。

供給問題を解決するため、米政府は核兵器用の高濃縮ウランを商用に「ダウンブレンド」して供与する方法も検討中。ただ、これも一定の時間はかかる。

米政府は2016年、保有する高濃縮ウランについて13年9月末から16年3月末までに7.1トンをダウンブレンドしたと公表している。今月、ダウンブレンドのペースは上向いているのかと質問されたエネルギー省は「ダウンブレンド率を加速させる機会は、常に考慮されている」とだけ答えた。

(Sarah McFarlane記者、Timothy Gardner記者、Susanna Twidale記者)