[名古屋市 14日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は14日、名古屋市での金融経済懇談会後の記者会見で、賃金の具体的な上昇率を金融政策の目標とすることに消極的な姿勢を示した。日銀は賃金上昇を伴う形での物価目標達成を掲げているが、「(賃金上昇率の)表面的な数字だけでなく、背後のメカニズムを含めて物価目標の持続的・安定的な達成につながっていくのか評価していくことになる」と述べた。

外国為替市場でドル高の流れが反転し、円高に振れていることについては「たいへん結構なことだ」と踏み込んだ。

<円安に歯止め「大変結構なこと」>

黒田総裁は懇談会でのあいさつで、賃金上昇に期待感を示した。会見では、賃金上昇の背後のメカニズムとして、特に労働需給の引き締まり度合いに注目していくと語った。

為替レートについては「経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」と改めて述べる一方、足元の為替相場は「政府が何度か為替市場に介入したこともあって、一方的で急速な円安の傾向がいったん止まっている。それ自体は大変結構なことだ」と発言した。

今後の為替相場の動向について、米国のようにインフレ率が高い国の通貨が上昇していくことは考えにくいことや、米経済の減速予想を踏まえ「ドル独歩高がいつまでも続くことは想像しがたい」と述べた。

<年8回の会合で「機動的に政策運営」>

黒田総裁はあいさつで、先行きの経済・物価見通しや上下双方向のリスク要因を丹念に点検し、それに応じて適切な金融政策運営を行っていくと述べた。この点について「上振れリスクが顕在化すれば、金融政策の正常化の用意もあるのか」と質問された黒田総裁は、この箇所は従来から言っていることで、10月の展望リポートでも言及していると説明した。

その上で、年8回開く金融政策決定会合では、前回の会合からの新たな情報や統計を踏まえて次の会合までの金融政策を決定する仕組みになっており「いろいろな状況に応じて、機動的に政策運営することができるようになっている」と述べた。

<政府・日銀の共同声明、「現在も有効」>

午前の懇談会では、出席者から2013年の政府・日銀の共同声明の実効性を点検すべきだとの声が出た。

黒田総裁は政府・日銀の共同声明は「現在でも有効だ」と述べ、政府もそのような考え方だと理解しているとした。輸入物価高の影響が来年にかけて減衰していく中で物価上昇率は2%目標を下回っていくとし、日銀は物価目標を持続的・安定的に達成するために金融緩和を続けると強調した。

(和田崇彦 編集:田中志保)