[17日 ロイター] – 米暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXの11日の連邦裁判所に対する連邦破産法11条適用申請から1週間を迎える。この間、同社は債権者が100万人を超える可能性があると明らかにした。今後の予想される展開をまとめた。

<経営破綻の状況>

FTXは負債の状況や、どのようにして経営破綻に至ったかについて説明する最初の文書提出に1週間近くもかかった。この異例な遅さの理由は、同社の11条適用申請に伴い新最高経営責任者(CEO)に就任したジョン・J ・レイ氏が17日に提出した文書で説明した「前代未聞」の会社の混乱から明らかだ。

レイ氏は2001年に破綻した米エネルギー会社エンロンの多年にわたる清算を統括するなど、長年の経験豊かな企業再建専門家。同氏は「自分のキャリアを通じて、これほどまでの圧倒的な企業統治不全と信頼に足る財務情報の不在は初めてだ」と指摘。自分がただちに優先して取りかかるのは資産のありかを特定して保全し、サム・バンクマンフリード前CEOなどの内部関係者に対する返金請求を調査し、米国内外の多数の規制当局による捜査に協力することだと表明した。

ペンシルベニア大のデービッド・スキール法学教授によると、FTXのこうした状況は同社が会社再建に充て得る新規資金を調達するのを困難にし、あるいは時間稼ぎして身売りするのも難しくする。

<顧客資産の保全は可能か>

消息筋によると、バンクマンフリード氏は自分が所有する投資会社「アラメダ・リサーチ」の経営改善のため、FTXの顧客資産100億ドルをひそかに流用し、このうち少なくとも10億ドルが行方不明という。

FTXは新経営陣の下で仮想通貨7億4000万ドルの所在を特定し保全したが、これは同社が債権者のために取り返したい分の「ごく一部」でしかない。

バンクマンフリード氏は昨年、顧客がFTXのプラットフォーム上に持つ資産が計150億ドルと主張したが、同社はこの金額が妥当と認識できていない。レイ氏の文書によると、FTXは顧客からの預かり資産をバランスシート上の資産に載せておらず、前CEO下で用意されたバランスシートも必ずしも信用できるものではない。

FTXは破産法適用申請の日に正式な承認なく引き出された3億7200万ドルなどについても回収を試みている。17日の提出書類によると、同社は再建チームが把握していない別の仮想通貨ウォレットについて、共同創業者らがもっと知っている可能性があるとみている。

<顧客は資金を取り戻せるか>

FTXのような仮想通貨プラットフォームの顧客口座は米国の銀行預金とは異なり、連邦預金保険公社(FDIC)の保護対象にならない。従来型の銀行破綻のように米政府が顧客預金回収に向けて介入することはないため、今回のような場合の顧客は連邦破産法手続きに頼るしかなくなる。

破産法11条下では会社からの資産回収は停止される。顧客はもし取り返せるとしても、どのぐらい取り返せるのかを裁判所が決定するのを待たねばならない。裁判所にとって重大な問題の1つは、仮想通貨が顧客のものなのか、FTXの所有物なのかの判断だ。

この問題についての法的な前例は現時点ではほとんどない。最近の仮想通貨を巡る破綻に照らすと、セルシウス・ネットワークとボイジャー・デジタルの仮想通貨貸し出し業者2社は、それぞれのプラットフォームの仮想通貨はすべて会社側の所有物と主張した。その場合、そうした仮想通貨は会社側の資産すべてと一緒にまとめられ、すべての債権者向けに分割される。顧客は弁済順位が比較的低くなる無担保請求権を持つと見なされることになる。

この逆に仮想通貨が顧客の所有と見なされると、顧客側はより多額を回収できる見込みが広がる。そうした場合でもFTXの負債額や残った資産によって回収は変わってくる。

セルシウスとボイジャーの件では今のところ、裁判所側はそれぞれの会社の言い分を認めている。しかし、破綻専門の弁護士ジェームズ・ヴァン・ホーン氏(首都ワシントン)によると、それも将来の法廷闘争しだいの面があるという。

<資金を引き出した顧客はどうなるか>

FTXの破綻前に資産を引き出した顧客も逃げ切れたとは必ずしも言えない。裁判所がFTXに対し、引き出された分の返還請求を認める可能性がある。引き出せていない債権者に対する支払いとより同等にできるようにする狙いだ。詐欺が絡む事例では、返還請求期間が何年にも延びる可能性がある。

ハーバード大のジャレッド・エリアス教授は「弾をよけられたと思うのは危険だろう。(こうした状況では)時に弾をよけきれないことがある」と忠告する。

<FTXの顧客が直面する他のリスク>

FTXの破綻が認められると、顧客の名前や電子メールアドレスや取引履歴が表に出る可能性がある。裁判所はだれがどれだけ借りがあるのか、債権者とどのように連絡を取るのかについて知る必要がある。つまり企業破綻にはある意味、最低限の透明性が必要になる。裁判所が透明性を優先すると、匿名性を期待する仮想通貨顧客には利害の問題が出てくる。