日銀の新総裁に経済学者の植田和男氏が就任することが固まった。政府は14日に国会に副総裁2人を含めた新しい日銀の幹部人事を報告、承認を受ける段取り。植田氏の就任は意外感を持って受け止められている。マスメディアの事前の報道には名前はなく、日経新聞が6日に「雨宮氏に打診」と報じた後だけに、市場関係者ならびにマスメディアは「サプライズ人事」と受け止めている。勝手に予想リストを作り、外れればサプライズと驚いてみせる、マスメディアの体たらくはここに極まれりといったところか。それ以上に「雨宮氏に打診」と書いた日経新聞もひどい。この記事の中身をみると政府が「方針を固めた」わけでもなく、「要請した」わけでもない。「打診した」のである。中身も今後の日程や市場の動きなどが中心。特ダネの体をなしていない。誰が考えてもこの時点での打診は遅すぎる。「打診」記事は、植田新総裁に軟着陸させるためのシナリオだったのではないか。

知ってかしらずか日経は政府の悪知恵の片棒を担いだ。メディアとしての“醜態”以外のなにものでもない。日銀のトップ3は総裁と2人の副総裁。この3人には慣習的に出身元の枠が設けられている。財務省と日銀枠、残りは学者枠だ。襷掛け人事といって総裁には財務省と日銀出身者が交互に就任する。法律があるわけではない、単なる慣習だ。だから財務省枠の黒田氏の後任は日銀枠。誰でもそう考える。政府もこの線に沿って人選を進めたのだろう。マスメディアも市場も思考は一緒。これも一種のバイアスだ。だから有力候補は中曽前副総裁か雨宮副総裁ということになる。ここで異変が起こる。中曽氏は2月初めにAPECの金融問題を取り扱うタスクフォースの議長に就任した。この要請がいつ行われたかわからない。おそらく昨年のことではないか。中曽氏は早い段階で「受けない」との意思を固めていた。となれば後任は雨宮氏ということになる。

想像するに政府は昨年の12月ごろに雨宮氏をはじめ次期総裁候補に対する打診をはじめたのではないか。打診というよりはサウンドと言った方がいいだろう。就任の可能性に関してお伺いを立てた。ここで中曽氏、雨宮氏とも辞退の意向を表明する。黒田異次元緩和の修正が必要な局面である。誰よりもそのことを理解している。異次元緩和に密接に絡んできた自分が後を引き受けることは道理に叶わない。ここから新総裁人事は難航を極める。財務省としても後任が財務省枠になれば世間の批判に耐えられない。窮余の一策が学者枠だ。だが問題の難しさに精通している学者の多くは逃げ腰。泥を被りたくない思いもある。何よりもこんな局面での行政手腕に自信がない。行き着いた果てが国際派の植田氏、71歳だ。サマーズ米財務長官は早速「日本のバーナンキ」と評してトキを送る。植田氏はMITでバーナンキ氏と同期だ。岸田総理は9日国会で、「雨宮氏に打診」を否定するかのように“国際派”と言った。すべてはシナリオ通りに運んだ。誰がこのシナリオを書いたのだろう。空想は財務省に向かう。難航人事は一転してサプライズを生み出した。金融政策、これからも財務省が舵をとる。