総務省の「行政文書」を巡る議論が国会(参院)で盛り上がっている。「捏造」と「議員辞職」がキーワード。テーマはテレビ局に対する「政治的圧力」の解釈論だ。議論といえば格好いいが、実態は平成26年暮から27年初頭にかけて繰り広げられた総務省内部の省利省略の泥試合といった方がいい。同省出身で当時総理補佐官だった礒崎陽輔氏の一連の動きと、安倍首相や総務大臣だった高市氏の言動をメモふうに取りまとめた文書である。全体で78ページに及ぶ膨大なもの。立憲民主党の小西洋之氏が入手、国会で取り上げた。高市大臣が自身に関する記述は「捏造」と切り捨て、事実なら「議員辞職する」と大見得を切った。松本総務大臣は「行政文書は総務省の正式な文書」と認めた。これを受け朝日、毎日が関連記事を一面トップに格上げ。国会では与野党入り乱れた論争に発展している。まるで安倍時代のモリカケ論争の再燃だ。

ここまで話題が大きくなると多少気になる。何が問題なのか。YouTubeで政府の内部事情に精通している髙橋洋一氏の解説を拝聴してみた。「なるほど」、これも一種の選挙目当ての謀略か。腑に落ちた。髙橋氏の解説が図星なら、これは民主党時代に起こった永田メールの再来に似ている。当時ライブドアー社長だった堀江貴文氏が衆議院選に立候補するに際し、自民党の武部幹事長に3000万円の賄賂を送ったという偽メール事件。これが偽メールと判明したあと、当時の民主党執行部は総辞職した。永田氏も議員を辞職、離婚の末、自ら命を絶つという悲劇的な事件である。今回はこれほど酷くはない。文書は総務省の正式な文書であると大臣が認めている。だが、問題がないわけではない。入手経路と入手時期が不明である。なぜいま、テレビ局に対する政治的圧力なのか、なんの説明もない。良識の府であるべき参院はウクライナ戦争や林外務大臣のG20欠席を無視して、「捏造」問題に血道をあげている。

この問題を理解するために必要な基礎知識は選挙である。4月9日には大分県と奈良県で知事選挙が投開票される。大分は野党系参院議員の安達氏が出馬を表明、4月23日に参院議員の補欠選挙が実施される。補選には渦中の人である礒崎氏(大分出身、落選中)が名乗りを上げると見られている。補選も奈良の知事選も旧自治省組が出馬する。話はそれるが総務省は2001年総務庁と郵政省、自治省が合流してできた組織。以来、旧郵政省と旧自治省が省内で派遣争いを続けている。立憲民主党の小西氏は旧郵政省出身。髙橋説によれば、9年前の文書を持ち出して礒崎氏と高市氏に揺さぶりをかけた。これが事実なら「なぜいまか」の疑問がすんなりと解決する。二つの知事選が近いのだ。もう一つ。この文書の配布先は櫻井総務審議官(嵐の櫻井翔のパパ)以下に限定されている。大臣室も次官室も入っていないのだ。旧自治省組の礒崎氏が仕掛け、旧郵政族が反発している構図が透けて見える。そして朝日も毎日もそうした事情は一切無視している。一部の官僚とマスメディアは個利個略の走狗か・・・。