[21日 ロイター] – 米国では、共和党員や元共和党員でありながらドナルド・トランプ前大統領を絶対に支持しない「ネバー・トランパーズ」の間に危機感が広がっている。2016年にトランプ氏が大統領に就任して以来、この一派は一貫して同氏の政治生命を終わらせる活動をしてきた。それにもかかわらず、24年の次回大統領選が始まった今、トランプ氏の勢いが非常に強く、このままでは共和党の大統領候補指名を勝ち取ってしまうのではないかとみられているからだ。 

懸念を誘っているのは、トランプ氏の有力な対抗馬になると目されてきたフロリダ州のデサンティス知事の人気が失速気味であることだ。

デサンティス氏は、保守的な価値観を堅持するためのいわゆる「文化戦争」に夢中になっている間に、政治資金調達や支持率、党候補指名のための味方議員獲得といった面でトランプ氏に圧倒されるリスクが出てきている。

4月上旬の共和党員と無党派層を対象としたロイター/イプソス調査では、トランプ氏支持率は58%とデサンティス氏の21%を大きく引き離した。共和党員のみに対する別の幾つかの調査でも、ここ数週間でトランプ氏のデサンティス氏に対する優位が強まった。

このためネバー・トランパーズのデサンティス氏への期待感は弱まりつつあり、中には実質的に白旗を挙げた向きもいる。

共和党員と元共和党員の有力な反トランプ活動団体「リンカーン・プロジェクト」の共同創設者リード・ガレン氏は「トランプ氏が党候補になるのを止められるなら止めに動くつもりだ。しかし彼は党候補になるだろう」と話す。

リンカーン・プロジェクトは2020年に数百万ドルを投じてソーシャルメディアやテレビ、新聞で反トランプの広告を展開したが、今は既に党候補指名レースの先を見据えている。

ガレン氏によると、同プロジェクトは激戦州(スイング・ステート)でトランプ氏批判広告を流すため引き続き資金を集めているが、これは党候補指名を阻止するためでなく、24年の大統領選本選挙でトランプ氏が恐らく民主党候補となるバイデン大統領と対決する際に影響を与える目的だという。

共和党の大口献金者らは、デサンティス氏がはっきりとウクライナ支援姿勢を打ち出さなかったことや、トランプ氏側による攻撃に断固反論していないこと、全米や重要州の世論調査で人気が低迷している点などに不安を募らせている。

もっともデサンティス氏はまだ正式に大統領選出馬さえ表明していない。共和党ストラテジストのダグ・ヘイアー氏は「軌道修正の時間はたっぷりとある」と指摘した。

<訴追問題が転機>

昨年11月の議会中間選挙で、トランプ氏の推薦した共和党議員が何人も敗北し、同氏の求心力に陰りが見えた以上、次の大統領候補は別の誰かを探そうとの機運が党内に生まれた。

そこで格好の人物とみなされたのが、保守的な政策実現を約束してフロリダ州知事再選を果たしたデサンティス氏だ。

ところが今年4月、トランプ氏が不倫相手とされる女性に口止め料を支払ったことを巡る業務記録改ざんなどの疑いで起訴されると、共和党は一致結束して同氏を擁護。ワシントンの連邦議員だけでなく、デサンティス氏の地元フロリダ州議会でもトランプ氏支持者が急増した。

トランプ氏は既に57人の連邦議員を含む67人の政治家から、党の大統領候補指名レースでの支持を取り付けている。一方デサンティス氏は4人の支持しか得られていない。

早い時期に予備選が開かれるニューハンプシャー州における世論調査でも、1月時点でデサンティス氏の支持率がトランプ氏を12ポイント上回っていたのに、今週は逆にトランプ氏が20ポイントも高くなった。

トランプ氏側近によると、同氏の選挙資金調達にも弾みが付き、今年第1・四半期の調達額は1900万ドル近くに達した。その大半は同氏訴追後に調達されている。多くの共和党員は訴追が政治的動機に基づいていると考えている。

これに対してデサンティス氏は、学校で性的少数者について教えることを制限したり、この政策を批判したウォルト・ディズニーに対して州が長年付与してきた特別待遇を奪う取り組みを進めたりして、トランプ氏の中核的な支持層にアピールを試みているが、成功していないように見える。

ディズニーとの対立を巡ってはトランプ氏が今週、デサンティス氏を「敗者」だとこき下ろしたのに、デサンティス氏は言い返さないばかりか、訴追問題でトランプ氏の援護に回った。

共和党ストラテジストでずっとトランプ氏に批判的なサラ・ロングウェル氏は「デサンティス氏は訴追問題でトランプ氏側に立ったことで、『トランプ劇場』における助演俳優になってしまっている。つまり(トランプ氏に比べて)弱々しく見える」と解説する。

ロングウェル氏は、トランプ氏の支配的な影響力は消えてしまう可能性があるが、そもそもデサンティス氏には政治的な才能がないとの見方を示した。

<大口献金者の対応>

ロイターが取材した数人の関係者の話では、デサンティス氏が妊娠6週以降の中絶手術を禁止する法案に署名したことやディズニーとの対立が、共和党大口献金者の一部が同氏に肩入れせず様子を見る原因になったようだ。

共和党献金者の多くは、トランプ氏にうんざりしているのも間違いないし、デサンティス氏がトランプ氏を倒せる最適な候補だとみなしているが、それでも協力してデサンティスを応援しようとまで思いきれないとの声が出ている。

逆に、ホテルチェーン経営者ロバート・ビゲロー氏のように、デサンティス氏を全面的に支持する献金者も存在する。ビゲロー氏は3月27日、デサンティス氏の陣営に2000万ドルを献金している。

ビゲロー氏は「大統領になろうとする人に聖人君子などいない。欠点が最も少ない人物を選ぼうとするべきなのだ」と言い切った。

(Tim Reid記者、Alexandra Ulmer記者、Nathan Layne記者)