岸田政権が最優先で取り組むと宣言している少子化対策。ここにきて財源論がちらほらとマスメディアに登場しはじめた。一部に消費税の引き上げを推す動きがあったようだが、どうやらそれは現時点では現実味がなさそうだ。代って登場したのが医療や年金など社会保障財源の流用。大型連休を利用してキューバを訪問していた茂木幹事長が同行記者団に述べたものだ。これに加藤厚労大臣が噛み付いた。フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出席、「今いただいている社会保険料は、医療は医療に使う、年金は年金に使うという、それぞれ目的と負担の関係でつくっている。年金や医療に使う金を子どもに持っていくのは、正直言って余地はない」(NHK)と否定した。日韓首脳会談で訪韓中の岸田総理は「今の段階で個別の財源論について何か言える段階ではない」(ロイター)と逃げの一手。

こういう報道を見ながら思うことは、岸田政権に異次元の少子化対策を実現する覚悟はまるでないという現実だ。対策の中身については小倉少子化担当相が3月末に、「こども・子育て政策の強化について(試案)」を発表している。これが異次元の対策かと茶々を入れたくなるのだが、それはとりあえず置くとして、かなりの規模の財源が必要になることは間違いない。6月の最終報告に向けて水面下ではすでに財源をめぐる鞘当てが始まっている。茂木・加藤論争もそのひとつみていいだろう。言いたいのは異次元の対策という以上、財源の目処については最初から落とし所を決めておくというのが、政治の常道ではないかということだ。財源の目処もつけずに「異次元の少子化対策」とブチあげたとすれば、それは典型的な“人気取り政策”ということになる。岸田総理が異次元と口にしたのは1月。当時支持率の低迷に喘いでいたことを考えれば、その可能性がないことはない。

岸田総理をはじめ自民党幹部や関係閣僚の財源に関する決まり文句は、「徹底した歳出の見直しが大前提」(岸田総理)の一点だ。にもかかわらず、何を見直するのかについては誰も言及していない。これも選挙を意識したパフォーマンスにすぎないのだろう。そんな中で外遊先という気楽さもあったのだろう。茂木幹事長が保険制度からの流用について発言した。おそらく現行制度の枠内でやりくりする、これが岸田政権の基本戦略だろう。茂木・加藤論争で見えてくるのは与党や政治家に新しい財源を作り出す意欲も熱意も想像力もないということだ。まして官僚においておやか。財源づくりは政治の原点だろう。「徹底した歳出の見直し」は政治改革そのものだ。お題目だけは口にするが、中身については言わない、考えない、競わない。異次元とぶち上げた少子化対策をみていると、自民党はすでに終わっている気がする。これに代わろうとする野党の姿も見えない。ここに“自滅日本”の病魔がある。