[ワシントン 2日 ロイター] – 米国の債務上限問題は、連邦政府が破滅的なデフォルト(債務不履行)に陥るほんの数日前という土壇場でようやく決着に至った。そのため一部からは、いっそ債務上限を撤廃するべきだとの声が出ているが、これがすぐに実現する公算は乏しい。

債務上限を巡る政治対立は投資家を不安にさせたばかりか、過去10年余りで2回目の米国債格下げが起きる恐れをもたらした。それでも近年の米議会で、債務上限廃止に向けた提案への支持はあまり広がってこなかった。

共和党は、債務上限を交渉手段として利用し、歴代の民主党政権から何兆ドルもの歳出削減を勝ち取ってきただけに、撤廃に前向きな姿勢は全く見せていない。同党のマイク・ラウンズ上院議員は「われわれの歳出慣行に対応する手段は(債務上限の)ほかにない」と語った。

債務上限に関する今回と過去2回(2011年と2013年)の大きな政治対立は、いずれも大統領と上院の多数派が民主党で、下院多数派が共和党という図式だ。

ただ民主党は、上下両院の多数派を握っていた2021年と22年に債務上限撤廃に取り組もうとはしなかった。そして今は撤廃の手立てを欠く。

昨年11月、中間選挙で民主党が下院の多数派を失い、共和党優勢の新議会が始まる前の時点で、イエレン財務長官は議会の民主党に対して危機を避けるために債務上限を何とかしなければならないと警告したが、彼らの胸には響かなかったようだ。

その結果、今夏の合意が失効する2025年1月の前には、また米国の政治は同じ問題に直面せざるを得なくなる。

<賞味期限切れ>

以前は債務上限の枠組みを肯定してきた財政タカ派主義者の一部も、政治の機能不全でデフォルトのリスクが高まり過ぎたとの理由から態度に変化が見える。

米財政を監視している市民団体「タックスペイヤーズ・フォー・コモンセンス」は今年になって、債務上限制度に対する支持をとりやめた。スティーブ・エリス事務局長は「かつて有用だったとしても、その有用性はもはや賞味期限切れで、廃止するべき時期がやってきた」と訴えた。

既に発生した政府債務の支払いに議会の承認を必要としているのは、先進工業国で米国とデンマークだけ。もっともデンマークは、問題が起きる余地がないほど十分高水準に債務上限を引き上げている。

民主党のビル・フォスター下院議員は「このような制度を運用しているのはわれわれのみで、赤字抑制に効果がないことも証明されている」と語る。フォスター氏は債務上限撤廃法案の起草者だ。

この法案は下院の民主党議員44人の賛成を得ており、同氏によると共和党議員からも非公式な形では支持を伝えられた。しかし公式に支持を表明した共和党議員はいない。

民主党が多数派の上院でも同じような法案が出されたが、共和党議員の支持を集められずにいる。

米国が最後に財政黒字となった2001年以降、議会では債務上限の引き上げないし停止について21回の採決が行われてきた。

この間、政府債務の対国内総生産(GDP)比は27%から98%まで上昇。議会では戦争や減税、景気刺激、社会福祉プログラム拡充といった理由で歳出が認められている。

それでも債務上限は時折、議会に自ら打ち出した税制や歳出方針に正面から向き合わせる手段として有効だと証明されてきた面もある。

議会は1980年代と90年代に、複数回にわたって超党派の予算合意を盛り込んだ形の債務上限引き上げを実行し、20世紀末までに財政均衡化を実現させた。

もっと近い時期では、2011年には共和党が債務上限問題をてこにオバマ政権から1兆ドル余り、今回もバイデン政権から1兆3000億ドルもの、歳出削減の同意を取り付けている。

保守系シンクタンク、マンハッタン・インスティテュートのブライアン・リードル研究員は「債務上限は赤字問題解決という面でひどい代物だが、われわれが有する唯一の手段だ」と述べた。

リードル氏や予算に関する他の外部専門家は議会に対して、デフォルトの脅威を避けながら債務問題を検討する方法を提案している。

バイパーティザン・ポリシー・センターは議会が年度予算を可決すれば自動的に債務上限が切り上がる仕組みを示し、リードル氏は予算編成プロセスそのものの「タコつぼ化」の色合いを薄めるべきだと主張する。

これらの改革がなければ、何らかの形で予算膨張にブレーキをかけるには債務上限を使うしかなくなる、と多くの専門家は口をそろえる。

コミッティー・フォー・ア・レスポンシブル・フェデラル・バジェットのマヤ・マクギネアス氏は「債務上限を撤廃するだけでほかに何も手を打たないということは決してあり得ない。債務上限は、今存在する唯一の財政ブレーキなのだから」と強調した。

(Andy Sullivan記者)