[10日 ロイター] – ホワイトハウスからの機密文書持ち出し問題で起訴されたトランプ前米大統領が、自らの正当性を立証するのは極めて難しい。法制度と事実関係の両面とも、トランプ氏に有利な要素が見当たらないからだ。複数の法律専門家はこうした見方をしている。

フロリダ州の連邦地裁が9日開示した起訴状によると、トランプ氏はスパイ防止法違反や司法妨害の共謀、偽証など37の罪に問われている。

国家安全保障に関する法律専門家らが衝撃を受けたのは、起訴状で示された書類や写真、テキストメッセージ、音源、関係者発言などの証拠の幅広さだ。これらは、トランプ氏が不正な手法で機密文書を持ち出し、そうした事実を隠ぺいしようとしたという検察側の主張を強く裏付けているという。

ブレナン・センター・フォー・ジャスティスの国家安全保障法専門家、エリザベス・ゴイテイン氏は「詳しく見ていくと、このような機密文書の取り扱いのずさんさと、連邦捜査局(FBI)に渡そうとしないための一致した取り組みという観点で、かなりショックだ」と述べた。

トランプ氏の弁護団はコメント要請に応じていない。トランプ氏本人は一貫して無実を主張するとともに、訴追は政敵による「魔女狩り」だとの見解を繰り返している。9日には自身が立ち上げたソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルで「罪など何も存在しない。司法省とFBIが私に対して何年も行ってきたものを除けば」と投稿した。

起訴内容の中で有罪となれば最も重い刑が科せられるのは司法妨害の共謀で、最大で20年の禁錮刑が待ち受けることになる。

法律専門家の見解では、トランプ氏が召喚状の対象となった文書を保持していると認識しつつ、提出を拒否した上で、弁護団に対してFBIをごまかすよう促したことが証拠で示されているもようだ。

保守系シンクタンクのケイトー研究所の法律専門家、クラーク・ニーリー氏は「これは想像し得る限りで最も明確な司法妨害だ」と語った。

ある弁護士は、司法妨害は被告を弁護するのが特に難しいと解説。「それは人々の気分を害し、正当な司法手続きから事態を隠し、ほとんどの人はなぜ罪になるのかを理解している」と付け加えた。

トランプ氏が何年も機密文書を隠し続けようとしたとされる問題こそ、ジャック・スミス特別検察官がトランプ氏起訴を決めた大きな要因の1つになった公算が大きい、というのが法律専門家の見立てだ。

<問題なのは隠ぺい工作>

捜査中にトランプ氏の弁護団はFBIに対して、所持していた機密文書は全て渡したと伝えたが、それは偽りだった。弁護団側は捜査当局を意図的に欺こうとしたわけでないと説明している。

ブレナン・センターのゴイテイン氏は「これは隠ぺい工作が罪そのものより悪質とされる状況だ。トランプ氏が単なる不注意(で文書を渡さなかったので)あれば、立件されなかっただろう」と話した。

共謀行為によって、司法妨害の罪がさらに重大化する。検察側が証明しなければならないのはトランプ氏が別の誰かとともに、捜査の目をくらまそうとしたという点で、そうした企てが成功したかどうかは問題ではない。

ケイトー研究所のニーリー氏は、起訴状を読む限り、検察側はトランプ氏の共謀行為を証言してくれる多くの人を得られそうだとみている。

トランプ氏は、文書持ち出し前に機密指定を解除したと申し立てている。しかし起訴に際して提示された録音データでトランプ氏が数人に機密書類を見せた上で、大統領として機密指定解除はできたが、実際はしなかったと述べたことが分かっており、トランプ氏の主張は説得力が乏しい。

さらに機密指定問題は最終的には、あまり意味をなさなくなるだろう。それは検察側がトランプ氏をスパイ防止法違反で起訴しているためで、機密指定制度の導入前に当たる第一次世界大戦時に制定されたスパイ防止法は、国家防衛に関する情報を権限なく所持するだけで違法とみなすからだ。

ジョージタウン大学のトッド・ハントリー教授(法学)は「例えば全ての文書の機密指定を解除したとしても、スパイ防止法では関係がなくなる」と述べた。

<トランプ氏の活路>

もっともトランプ氏側にも、裁判で勝利する可能性がないわけではない。弁護団は証人の申し立てに異議を唱える可能性があるし、トランプ氏が弁護団の助言に従っただけで法律違反の意図はなかったと主張してもおかしくない。

また裁判になれば審理が開かれるのは、特別検察官が訴状を持ち込んだフロリダ州の陪審団となるが、同州は保守派が強い。ここで有罪に反対する陪審員が1人出ただけで、トランプ氏の審理は無効になる。

トランプ氏の弁護団は、同氏が立候補している2024年の大統領選が終わるまで、審理開始を延期するよう要請するケースもあり得る。法律専門家の間では、実際にトランプ氏が当選してしまった場合、「無罪放免」となるのかどうかについては意見が分かれている。

(Jack Queen記者)

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