米国を代表する大手テック企業のメタ・プラットフォームズとマイクロソフト(MS)が、人員削減に乗り出した。Bloombergは「最大で2万3000人の雇用に影響が及ぶ可能性がある」と伝えている。「いずれも人工知能(AI)への巨額投資を相殺し、事業運営の効率化を図る取り組みの一環だ」と理由を説明している。それはその通りだと思う。だが、それだけだろうか。このニュースをみて米国で起こっている「アンソロピック騒動」がすぐに頭に浮かんだ。大手テック企業はAIの進化がもたらす労働者不用時代を先取りしはじめたのではないか、脳細胞がビリビリと刺激された。先走りし過ぎる嫌いがないとは言えない。でも米国の火星着陸を目指すアルテミス計画が本格化しはじめたことを考えれば、早いに越したことはない。先見の明がある経営者なら誰でもそう考えるだろう。AIに投資し、人間不用時代に備えた準備が始まったのだ。

このニュースを見てすぐに頭をよぎったのは、日立が家電子会社を売却するという数日前のニュースだ。Yahoo!ニュースによると「ノジマが21日、日立の家電子会社『日立グローバルライフソリューションズ(GLS)』を約1100億円で買収することを決めた。日立にとって、家電や空調といったコンシューマー向け大型製品の再編は、ノジマへの家電子会社売却でおおむね区切りがつくことになる」。日立は2009年3月期の決算で7873億円という巨額の赤字に陥った。この赤字の規模は家電、重電業界では過去最大の規模だった。ここから経営改革が始まるのだが、この改革のポイントとを一口で言えばテレビから原子炉、造船まで含む総合家電メーカーから、BtoB専業への体質転換だった。その総仕上げが今回のGLSのノジマへの売却というわけだ。GLSの従業員は国内外で6100人。売却が実現すれば日立はグループとして6100人の従業員を解雇したことになる。売却に伴う収入は1000億円を超えるわけで、日立グループの損益は大幅に改善されることになる。

この2つの事例は日米の人員削減に対する発想の違いを浮き彫りにしている。メタとMSはAIへの投資負担を軽減するため、人件費負担を軽くしようとしている。これに対して日立は20年近い歳月をかけてグループ戦略を進めており、それに絡んだ人員削減を実現している。どちらがいいとか悪いとか言いたいわけではない。どちらも時代の変化を注視しながら、経営の環境整備を進めている点では一緒だ。違っているのは人員削減を決定するまでの時間のかけ方だ。米国は即断即決に近く、日立は経営の長期戦略に合わせて人員削減を実現している。即断即決の一例はMSだ。削減計画は全従業員の10%にあたる8000人だが、「採用予定だった6000人分の空きポジションについても、採用を見送る」のだという。空きがあるとはいえ一旦決めた採用計画を簡単に撤回している。日本では無理だろう。AI時代というのは別名スピード時代でもある。瞬時の決断によって会社と従業員の将来が決まる。経営者はこうした変化に適用しなければならないのだ。