• 台湾巡り米中「衝突」や「極めて危険な状況」あり得る-習氏
  • 自信深める中国、台湾問題の重要性をトランプ氏に刻み込む狙いか
北京の人民大会堂で行われた歓迎式典に出席した中国の習近平国家主席とトランプ米大統領(14日)
北京の人民大会堂で行われた歓迎式典に出席した中国の習近平国家主席とトランプ米大統領(14日)Photographer: Alex Wong/Getty Images

Rebecca Choong Wilkins、Colum Murphy、Yian Lee

足並みをそろえて行進する兵士や旗を振る子供たちでトランプ米大統領を歓待した中国の習近平国家主席だが、台湾を巡り両国が「衝突」することもあり得ると、強い警告を発した。全てが予定調和的な共産党政治において、この発言は衝撃的だった。

  米国の大統領に台湾問題に介入しないよう促すのは、中国の常とう手段だ。だが、それが「極めて危険な状況」を引き起こし得るとの今回の発言ほど率直な言い回しを、習氏は台湾についてこれまで使ったことはなかった。約2時間半に及んだトランプ氏との会談が終了する前に中国側が発言内容を公表したことも、このメッセージの重大さを浮かび上がらせた。

  トランプ氏は、習氏が台湾問題を理由に対米関係全般を損ねるだけの意思があるのか、見極める必要がある。習氏は9月にホワイトハウスを訪問する予定を含め、トランプ氏との会談が年内にあと3回あると見込まれている。

  トランプ氏が140億ドル(約2兆2100億円)規模に上る台湾への米国製武器売却計画を少しでも破棄しようとすれば、米議会で超党派の反発を招く可能性が高い。一方で、この取引が承認されれば、トランプ氏は中国の怒りに直面する。

  かつて中国外務省の顧問を務め、現在は復旦大学で米国研究センターの責任者を務める呉心伯氏は、「中国にとってこの問題がいかに重要かを、トランプ大統領に十分理解してもらいたいとわれわれは考えている」と述べた。習氏は米国に台湾への武器売却を停止し、台湾独立反対の立場を明確にするよう促すため、今回のような「強く、直接的な」警告を行ったのだと呉氏は論じた。

  習氏の警告後、トランプ氏は異例の沈黙を続けた。記者団に会談の結果を説明することもなく、数時間後に発表された米国側の会談要旨でも台湾に関する言及は一切なかった。中国共産党は台湾を自国の領土と見なしているが、統治したことは一度もない。

「目立つ形では」

  その後、台湾の地位について双方は従来の立場をあらためて表明し、互いの立場を全員が理解していると、政府高官が述べた。

  ルビオ米国務長官は14日、北京でNBCに対し、台湾への米国の武器売却はトランプ氏と習氏の会談で「目立つ形では取り上げられなかった」と語った。

  「米国側の見解は、力によるいかなる現状変更も、米中いずれにも悪影響を及ぼすだろうということだ」とルビオ氏は説明。「台湾問題に関する米国の政策は現時点で、そして本日ここで行われた首脳会談の時点でも変わっていない」と続けた。

  中国の主張は、米国にとって予想外ではなかったはずだ。首脳会談に先立つ過去数週間、事実上の独立維持を支持する政党出身の頼清徳・台湾総統に対する圧力を中国は強めていた。習氏は4月、台湾の親中派野党の党首を招いて会談。このような会談は10年ぶりだった。

  その数週間後には、中国はアフリカ3カ国に圧力をかけて頼総統搭乗機の領空通過を拒否させ、同総統の外遊を妨害した。

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力関係

  レアアース(希土類)を武器に昨年トランプ氏に高関税を撤回させた中国は、今回の首脳会談に自信を深めて臨んだ。レアアースは医療機器や航空機部品などに欠かせず、総額1兆2000億ドルに相当する米国内総生産(GDP)の約4%はレアアースを使う産業が生んでおり、米国で使用される大半のレアアースが中国産だ。

  トランプ氏が追加関税を課す権限を米連邦最高裁判所が制限し、イラン戦争で米国の弱点が浮き彫りとなったことも、習氏の立場を強めた。イラン戦争で米国の兵器在庫は大きく消耗して補充には数年を要するとされ、アジア太平洋地域の米同盟国の懸念を招いている。この戦争に終わりが見えないまま、トランプ氏は北京に到着した。

  米国当局者はまた、中国がイラン産原油の最大の買い手で、国際舞台で同国の最も親密な外交パートナーの一つであることから、中国に戦争終結への協力を繰り返し要請している。これまでのところ、同様の要請を受けている米同盟国と同様、中国は要請を受け流している。

  こうした背景を踏まえると、台湾を巡り強く主張する決定を下した習氏の考えは、いっそう理にかなう。台湾政権が最近、特別軍事予算を可決させ、武器購入の余地が増加したという状況もある。

  一時停止された140億ドルの武器売却は過去最大規模で、昨年12月に承認されたばかりの110億ドル超の取引を上回る。習氏は当時、この取引に不快感を示し、大規模な軍事演習を実施したほか、数週間後にはトランプ氏に直接電話をかけて抗議していた。

方針転換

  トランプ氏が台湾向け武器売却で習氏と交渉する動きを見せるだけで、米国の方針転換となる。1982年に当時のレーガン大統領は、台湾に対するいわゆる「6つの保証」の中で、台湾への武器売却に関して中国政府に事前協議を行うことに同意していないと表明し、その後数十年にわたる外交上の慣例を確立した。

  中国の当局者は米国の政策に劇的な転換があると期待するのは現実的でないと認識している可能性が高い。その理由は2つある。トランプ氏がそのような決断を下せば、すぐさま反発を受けるほか、同氏の次の政権が早々に撤回するリスクがあるからだ。

  だからと言って、米国に対して過去数十年で最も有利な立場にある中国が、他の具体的な成果を求めようとしないわけではない。もっとも、米国が代替供給源を模索し始めているため、その優位性には有効期限があるかもしれない。

  「習氏は、台湾を巡る国益を守るためなら、いかなることも辞さないという強い印象を、トランプ氏の心に長く刻みたいと考えている」と、ワシントンを拠点とする非政府組織(NGO)「国際危機グループ」の北東アジア担当シニアアナリスト、ウィリアム・ヤン氏は指摘。

  「習氏は本質的に、台湾に対する米国の姿勢と政策が米中関係の成否を左右する最も重要な要因になり得ることを、トランプ氏に示唆しているのだ」と述べた。

原題:Xi’s Threat to Trump Cements Taiwan as Top US-China Risk (1)(抜粋)