イランとの停戦協議が長引いている。その原因は、トランプ大統領が自身に都合の良い独断的な発言を繰り返し、協議の進捗を妨げていることにあるように思えてならない。そんなことを考えながら今朝のニュースを見て、驚愕した。
ロイターの報道によると、トランプ氏は停戦合意を前提条件として、中東・湾岸周辺国に対して「アブラハム合意」への参加を義務付けようとしているというのだ。
これに対し、停戦協議の仲介役を務めるパキスタンの関係筋は、「イランとの戦闘終結を巡る外交努力と、アブラハム合意の拡大は無関係であり、関連付けることはできない。パキスタンにはこのような要求に従う義務は一切ない」と猛反発している。
なんということだろうか。選挙を控え、一刻も早く戦争を終結させたいトランプ氏にとって、パキスタンは「友好国」という以上に、恩義を感じるべき重要な「協力国」のはずだ。今回の発言は、そのパキスタンの仲介努力に自ら水を差すようなものである。日本流に言えば、まさに「恩を仇で返す」行為と言っても過言ではない。ここでも「トランプ・ワールド(トランプ氏特有の世界観)」が空回りしている。
そもそもアブラハム合意とは、米国の仲介によってイスラエルとアラブ諸国の国交正常化を目指すものである。すでにUAE(アラブ首長国連邦)とバーレーンが署名しているが、トランプ氏はさらにサウジアラビア、カタール、パキスタン、トルコ、エジプト、ヨルダンに対しても一斉に参加を要求したという。
トランプ氏は「この極めて複雑な問題をまとめるために米国が行ってきた全ての取り組み」を自賛した上で、イランとの停戦合意が成立すれば、イラン自身がアブラハム合意に参加することを周辺国も歓迎するはずだ、という見方まで示している。一部に参加を見送る国がある可能性を認めつつも、大半の国は「イランとの合意をさらに歴史的な出来事にする用意ができているはずだ」と主張しているが、これらはすべてトランプ氏の都合の良い解釈と、「自分の世界観こそが正しい」という思い込みを前提にしている。
これまでのトランプ・ワールドを振り返れば、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」や「MAGA(アメリカを再び偉大に)」、強硬な関税政策、グリーンランド買収構想、孤立主義(ドンロー主義)、そしてイラン戦争での「完璧な勝利」など、耳にタコができるほど聞かされた言葉が蘇ってくる。
いずれも現実から乖離した誇張や妄想に近いものだが、厄介なことに、これが現実の国際政治を左右してしまっている。同氏が描く幻覚のような世界秩序の再編論は、本人の頭の中で完結しているだけであり、関係国の賛同をまったく得られていない。現に、彼の関税政策に対しては米連邦最高裁判所が違法との判断を下しており、「1日で終わらせる」と豪語したウクライナ戦争も、4年が経過した今なお続いている。
それにもかかわらず、イラン戦争の停戦協議すらままならない段階で、今度はアブラハム合意への参加を強要し始めているのだ。まるで自分の言葉すべてが“正義”であるかのような振る舞いである。そして、こうした発言が周囲の外交努力を台無しにしていることすら、彼は理解しようとしない。
単に「耳にタコ」とTACOでは済まない。ここまでくると、もはや思想や信条における“独裁者”と呼んだ方がふさわしいのではないか。独善的なリーダーが手綱を握るなか、果たして本当に停戦協議は合意に至るのだろうか。強い懸念を抱かざるを得ない。