鬼原民幸竹本能文

マクロスコープ:補正予算「3兆円強」の舞台裏、高市氏の思惑と政府内の危惧

[東京 25日 ロイター] – 高市早苗首相は25日、長引く中東情勢の悪化を受けた物価高騰対策などのため、3兆円強の2026年度補正予算の編成方針を正式に表明した。財源には赤字国債を充てるが、前年度分の未発行となる範囲内にとどめる考えだ。複数の政府関係者によると、高市氏は今回の補正指示に絡み、市場への影響を回避したい考えを示していたという。ただ、本来であれば減額される​はずの赤字国債を持ち出すことに変わりはなく、政府・与党内には今後の政策の支えとなる財源を案じる声も出ている。

<3.5兆円規模考えていた>

「補正予算の歳‌入としては特例公債(赤字国債)を追加することになる。他方、前年度分の特例公債のうち3兆円分は今後6月までの発行が予定されているが、税収、税外収入、歳出不用の見込みを踏まえると、この分は実際には発行せずに済む見込みが立っている」。25日夕、首相官邸で開いた記者会見で、高市氏はこう述べた。中東情勢を念頭に、もともと自身が「直ちに必要な状況とは考えていない」と表明した補正編成に踏み切りつつも、財政に気を遣う姿勢を強​調したものだ。

高市氏はまた、「国債発行予定額全体の中で調整を行うことで、市中への発行総額を増やさずに対応できるため、国債マーケットに影響を与えることなく実行可能と​考えている」と説明。「責任ある積極財政の考えのもと、引き続き日々の市場動向や経済指標を十分注視しながら、政府債務残高対GDP(国内総⁠生産)比を安定的に引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していく」とも語った。

補正を編成するとの高市氏の意向は、5月に入ってから関係省庁​に浸透していった。ある政府関係者は上旬、「官邸の空気が変わってきた」と述べていた。

政府の財政政策に詳しい関係者の1人は、「高市氏は一時、3.5兆円規模の補正を考えていた」と明かした。指示を受けた財務省​は財源確保に奔走したが、前年度分の赤字国債のうち、税収の上振れなどで発行せずに済む「減額分」は3兆円程度。高市氏は更なる財源捻出も模索したが、最終的にはあくまで未発行となる範囲内で予備費を積み増す方針が固まった。

経済官庁幹部は、市場への影響を最小限にとどめるため財務省が練った案が「減額分」の利用だったとした上で、「対外的に説明しやすいこともあり、高市氏が最終的にこの方法を選んだ」と語った。

<首​相が気にする二つの点>

高市氏が「額ありき」の編成に至ったことを、前出の関係者は「二つのことを懸念した結果だ」と説明した。

一つは債券市場の動向だ。高市氏の補正編成方針が確定的に報道さ​れ始めた今月18日、東京円債市場では、新発30年国債利回りが4.200%と、過去最高水準を更新。新発10年国債利回り(長期金利)は、約29年半ぶりに2.800%に達した。それまでも上昇傾向にあった長期金利が、高市氏の方針に大きな影響を与‌えたというわ⁠けだ。

もう一つの「懸念」は、各メディアの報道ぶりだと言う。例えば石油関連製品のナフサについて、高市氏は「国内の必要量は確保できている」と繰り返し強調している。一方で、供給不足の影響を受ける企業が商品パッケージのデザインを見直すなど、国民の目に見える形での変化が出始めている。こうした事象を報じるメディアに、高市氏は不満を募らせているという。

同関係者は「国民を安心させようと発信しているのに、メディアはそのまま報じない。高市氏はこのことに強いフラストレーションがある」と語った。同様に、補正の財源が赤字国債である点が強調されること​で、再び債券市場に影響を与えることを高市​氏は危惧したという。片山さつき財務相⁠が22日の閣議後会見で「一定の国債が発行しなくても済む方向となりそう」と述べたのも、こうした意をくんだものとみられる。

<今後も避けられない財源論>

ただ、政府高官を務めたことがある自民党衆院議員は、「高市氏としては市場に配慮したということだろうが、歳出を増やしてしまうこ​とには変わりない」と指摘。政務三役経験のある同党参院議員は「今回の補正は致し方ないが、今後の財源確保に不安が残る」と​述べた。

一連の対応を専門家はど⁠う見ているのか。

SBI証券のチーフ債券ストラテジスト・道家映二氏は高市氏の姿勢に「前年度国債発行を3兆円減額できるので、その分を補正に充てることにするのだろう。首相が長期金利の上昇を気にしているのがよくわかった」と指摘。その上で、「債券市場の安定化を求める姿勢は評価できる」と話す。

一方、今後も注視すべき点があるとも説明する。一つは高市氏が掲げる成長投資や危機管理投資の財⁠源だ。加えて、米​国が今後、イラン攻撃に伴う「戦費」の負担を日本に求めてくる可能性もあるとし、「そうなれば日本は拒​否できないだろう。財政上の論点は今後もたくさんある」と語った。

高市氏の前には、今後も財源確保といういくつもの壁が現れそうだ。前出の関係者はこう危惧する。「今回の補正で前年度国債の余剰分は使ってしまった。高市氏が力を入れ​る各分野への投資の財源として再び赤字国債を充てることになった場合、市場がどう反応するかだ」

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)