Robyn Mak

Robyn Mak

写真は2025年8月15日、北京で開催された第1回「世界ヒューマノイドロボット競技大会」でキックボクシングの試合に臨むユニツリー社のロボット。

[香港 30日 ロイターBreakingviews] – 8月に北京で開催される「世界ヒューマノイドロボット競技大会」は、期待と現実の間に大きな溝があることを示すものになるだろう。

昨年の第1回大会には16カ国から500体超のヒューマノイド(人型ロボット)が参加し、運動競技を繰り広げたが、その様子は酔っ払いがぶつかり合うようなぎこちないものだった。その後の技術的な進歩はごくわずかなものだ。ある政府関係者は、今年のサッカー競技の技能は「幼稚園児から青少年レベル」に進歩する見通しだと話す。​人型ロボットを巡る中国の熱狂は、過熱状態にある。

ネット上に氾濫する、ロボットがダンスを踊ったり、マラソンを走ったり、家事をこなしたりする動画を見れば、「スター・ウォーズ」のCー3POのような執事や「‌ターミネーター」のような兵士が中国中を歩き回っているかのような印象を抱きがちだ。昨年、習近平国家主席が中国の有力テクノロジー大物経営者を集めた注目度の高い首脳会議で、宇樹科技(ユニツリー)の王興興最高経営責任者(CEO)が最前列に座ったことは、この業界の隆盛を裏付けるものだった。実際、2030年までを対象とする政府の経済計画「5カ年計画」は、ロボティクスを中国経済の新たな成長エンジンに位置付けている。

急速な高齢化と労働力縮小を背景に、中国政府は高度なロボットの導入で製造業をテコ入れし、ゆくゆくは教育から医療まであらゆる分野に活用したい​考えだ。昨年のロイター報道によると、当局は24年以降、ヒューマノイド開発支援に少なくとも200億ドルを既に拠出している。

民間企業の参入も相次ぐ。11月、中国当局は約150社のヒューマノイドメーカーが市場で過剰競争を繰り広げてい​るとして、バブルのリスクが生じているとの異例の警告を発した。公式推計によると、知能ロボティクス分野の登録企業は24年末時点で45万社を超え、4年前の3倍以上に膨らんだ。ブルーム⁠バーグによると、6月時点でロボティクス関連の新興企業約50社が香港での新規株式公開(IPO)計画を提出している。

こうした動きから、生産性の急速な向上への期待が高まっている。中国はロボット製造大国として台頭し、ヒューマノイド開発で世​界をリードする態勢を整えつつある。バークレイズのアナリストの試算では、中国国内のロボット年間導入台数は35年までに1100万台に達し、世界の他地域の予測値である200万台を大きく上回る見通し。さらに同時点で中国の保有台数は2400万台という驚異的な​水準となり、これは実効労働力のほぼ4%に相当し、予想される労働人口減少の大半を相殺できる可能性があるという。

ただ、現実はもっとアナログかもしれない。モルガン・スタンレーのアナリストによると、中国の昨年のヒューマノイド販売台数はわずか1万2000台で、その大半を市場首位のアジボット(AgiBot)と宇樹科技が占めた。しかも、その多くは商業用や産業用ではなく、科学・教育研究や試験用途向けだった。

技術的制約も残る。比較的高度なモデルでも、管理された環境の外では基本的な作業に必要な器用さや知能を欠いており、これは「モラベックのパラドッ​クス」として知られる。複雑な計算や分析など人間が難しいと感じる作業をロボットは得意とする一方、衣類をたたんだり階段を上ったりといった単純な作業には苦戦するというものだ。仮にロボットがこうした技能を習得できたとして​も、予測不能な現実世界にすぐに応用できる保証はない。

ユニツリーや同業他社にとってこれは、ヒューマノイドの用途が当面、工場、倉庫、店舗に限られることを意味する。それは恐らく好ましいことだ。モルガン・スタンレーのアナリスト、シェン・ジョン氏の‌見積もりでは、売⁠上高は30年までに150億ドルを突破する見通しだ。政府調達が大きな役割を果たし、国家電網や中国郵政といった国有大手企業が大規模発注を行うとみられる。

課題は中国の工場が既に自動化が大幅に進んでいる点だ。国際ロボット連盟(IFR)によると、中国の産業用ロボット保有台数は、固定式ロボットアームやガントリーといったローテク機械を中心に200万台超に達しており、その多くは電子機器・自動車産業に集中している。これらは部品数が少なく、溶接や重量物搬送など特定の繰り返し作業向けに設計されているため、汎用型アンドロイドより速度と信頼性で勝る。平均寿命は15年で、ヒューマノイドの推定耐用年数の2倍以上だ。

加えて、日本のファナック(6954.T), opens new tabなどとの激しい競争で価格は圧縮されている。深セン市場で時価総額50億ドルのモーションコントロールシス​テム・ロボットアーム供給会社、南京埃斯頓自動化(002747.SZ), opens new tabは、売上​高が同期間に3倍超に拡大したにもかかわらず、営業利益⁠率が18年の7%超から昨年は3%未満に縮小した。

ヒューマノイドは一部の分野で人間の力を補完したり上回ったりする可能性を秘めるものの、経済成長が減速する中、中国企業はこれに大金を投じる意欲を持たないかもしれない。習氏の政策は工場のアップグレードを促すもので、人工知能(AI)やグリーンエネルギーといった一部の高成長分野はロボティクス技術への投資が見込まれる。だ​がS&Pグローバルが昨年発表したリポートによると、中国の企業設備投資全体では25─27年に年0.6%減少する見通しで、これに先立つ3年間の年率平均6.2%増から急反転する。

新興企業は群雄割拠の中​で差別化に苦慮している。騰訊控股(⁠テンセント)(0700.HK), opens new tabが出資するアジボットは、人間が設計した空間でより柔軟な工場作業をこなせるモデルを売り込んでおり、小規模で老朽化した労働集約型施設に最適とアピールしている。上海で25億元(3億6800万ドル)規模のIPOを準備中のディープ・ロボティクスは、消防士や送電網運営事業者が使用する四足歩行ロボットに特化している。同じく上場を目指すエンジンAIは、人間に似た歩行・動作を持つフルサイズのヒューマノイドを得意とし、警備員やツアーガイドとして起用された実績がある。

ロボティクスの進歩に伴い、用途は確実に拡大する。⁠それでも、収益性​は厳しい。ユニツリーは、第1四半期の売上高は前年同期比で68%増だったが、調整後純利益は半減した。IPOで約67億ドルの企業価値評価を目指す同社は、研究開発(R&D)費​が売上高の10%に達したことや、新規参入のライバル各社に対抗するための販売値引きが影響したと説明している。

この収益構造は、中国の電気自動車(EV)ブームを想起させる。爆発的成長と急速な技術進歩にもかかわらず、価格競争と需要鈍化で多くの企業が苦境に陥っている。コンサルティング会社アリックスパ​ートナーズの昨年の予測では、EV・プラグインハイブリッド車129ブランドのうち、30年までに財務的に存続可能なのは15社にとどまる。中国のヒューマノイドも同様に過酷な競争にさらされる運命にある。どんなロボット五輪よりもはるかに熾烈な戦いになるだろう。